2022年5月10日火曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その224]

 


「『オードリー・ヘップバーン』は、『ヘップバーン』ではなく『ヘボン』だからだ」


と、『少年』の父親は、『少年』が予期できる訳もないことを云い出した。『牛田新町一丁目』のバス停を背にし、家族と共に、自宅へと向っているところであった。


「『ヘボン』?ええ?あの『ローマ字』の『ヘボン式』の『ヘボン』?」


『少年』は、『ヘボン式』はどこが『ヘボン式』なのかを思い出そうとしながら、同時に、まだ、少年ながらに美しいと思う『オードリー・ヘップバーン』の顔も思い浮かべていた。




八丁堀から牛田まで、随分、時間がかかったような気がする、と『少年』は疑問に思ったのであった。八丁堀から牛田まではバスで10分から15分くらいしかかからないのに、そんな時間ではとてもし切れない程のボリュームの話を父親から聞いたことを訝しく思い、その疑問に対し、『少年』の父親は、『アインシュタイン』の『相対性理論』を持ち出し、時間の進み方が遅かったのかもしれない、と答えた。しかし、『少年』はまだ納得できていないからか、『少年』の父親は、『閏年』があること、更には、『閏年』になるはずの年でも『閏年』にならない年もあることから、『1年』という時間は一定ではないと主張したものの、『少年』は、どこか誤魔化されている感を拭えないでいた。そこで、『少年』の父親は、日付変更線を越えることで、『昨日』にも『明日』にも行ける、と説明したかと思ったら、次に、1時間だけだが、日付変更線を越えなくても、『未来』や『過去』に行ける、とまで云い出した。それに対し、『少年』は、未来や過去を絵に描けばいい、そして、その未来を予見するには、自らが未来を創ればいい、と主張し、その慧眼に『少年』の父親は、驚きと共に喜びを表したが、またまた、アメリカやイタリア等は、強制的に1時間先の未来に連れて行かれたり、1時間昔に戻されたりすることがある、それも一瞬にして、と謎のようなことを云い出し、日本でもかつてそうであったことがあり、『4月か5月の第1土曜日の夜中24時に、1時間先の未来に連れて行かれ、9月の第2土曜日の25時になると、1時間昔に戻される』と法律で決められていたと説明した。しかし、『少年』には、『1時間先の未来に連れて行かれ、1時間昔に戻される』その『間』が何であるのか、理解できず、父親に訊いたところ、『サンマータイム』という返事があり、そこから『秋刀魚』という漢字の由来や、『さんま』は一文字の漢字では、魚偏に『祭』と書くこと等、『さんま』の漢字談義へと派生していっていたが、『少年』は、『サンマータイム』とは何か、という疑問に立ち戻り、『サンマータイム』を定めた法律は、正式には、『夏時刻法』と、『少年』の父親は、説明した。ところが、『少年』と『少年』の父親の会話は、そこから、『サンマー』が、実は『サマー』と発音するものであることから、英語の発音談義への移って行っていたのに、今、父親は、映画『ローマの休日』、そして、その主演女優『オードリー・ヘップバーン』や『ローマ字』の『ヘボン式』へと、また話を派生させていっていたのである。


「そうだ。その『ヘボン』だ」

「ああ、発音が違う、ってことなんだね?」

「そうだ。尤も、『ヘップバーン』でも間違いではないんだろうがな。『ヘップバーン』は、アルファベットでは、『エイチ・イー・ピー・ビー・ユー・アール.エヌ』(Hepburn)と書くんだが、この『p』は、聞こえないように発音されるようなんだ」

「聞こえないように発音???」

「そこが難しいところだなあ。発音したつもりで、実は発音はしない、といった感じかもしれない。『Hepburn』では、『p』の次に『b』が付くんだが、この『pb』と子音が続くのは、発音が難しくって、でも『b』の方は、次に、母音の『u』が付くから音としては残るが、『p』は音としては残らなくなったんじゃあないかと思う」

「ああ、それで、『ヘップバーン』が、『ヘボン』って発音になるってことなんだね?でも、『ヘボン』じゃなく『ヘバーン』じゃないの?」

「そうだな。『ヘボン』が正しい発音かと云うと、まあ、それもどうかとは思うが、『ビー・ユー・アール.エヌ』(burn)も、日本人的な発音の『バーン』ではないから、『ヘボン』と聞こえるのかもしれないなあ」

「でも、『オードリー・ヘップバーン』は、『ローマ字』の『ヘボン式』の『ヘボン』とおんなじなんだね。知らなかったあ」

「『ローマ字』の『ヘボン式』の『ヘボン』は、『ヘボン式』を考えた医者で宣教師だった『ジェームス・カーティス・ヘボン』(James Curtis Hepburn)から来ているんだが、その人の苗字は、『オードリー・ヘップバーン』とおんなじだったんだよ」

「『サマータイム』が、『サンマータイム』に聞こえたり、そう云われるようになったのも、『ヘボン』と『ヘップバーン』とおんなじ、ということなんだね」


と、『少年』は、父親との会話を、派生から見事に回収し、『サンマータイム』に戻した。しかし……



(続く)




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