2022年5月14日土曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その228]

 


「うーむ…そうじゃないだろうなあ、多分」


と、『少年』の父親は、ようやく辿り着いた『少年』の合点を打ち消してきた。『牛田新町一丁目』のバス停を背にし、家族と共に、自宅へと向っているところであった。


「『旅情』は、アメリカとイギリスの合作だから、絶対にそうじゃない、とは云い切れないけど、アメリカには『サマータイム』はないからなあ」

「ええー!?」


『少年』は、納得のいかなさを声音に隠さない。


八丁堀から牛田まで、随分、時間がかかったような気がする、と『少年』は疑問に思ったのであった。八丁堀から牛田まではバスで10分から15分くらいしかかからないのに、そんな時間ではとてもし切れない程のボリュームの話を父親から聞いたことを訝しく思い、その疑問に対し、『少年』の父親は、『アインシュタイン』の『相対性理論』を持ち出し、時間の進み方が遅かったのかもしれない、と答えた。しかし、『少年』はまだ納得できていないからか、『少年』の父親は、『閏年』があること、更には、『閏年』になるはずの年でも『閏年』にならない年もあることから、『1年』という時間は一定ではないと主張したものの、『少年』は、どこか誤魔化されている感を拭えないでいた。そこで、『少年』の父親は、日付変更線を越えることで、『昨日』にも『明日』にも行ける、と説明したかと思ったら、次に、1時間だけだが、日付変更線を越えなくても、『未来』や『過去』に行ける、とまで云い出した。それに対し、『少年』は、未来や過去を絵に描けばいい、そして、その未来を予見するには、自らが未来を創ればいい、と主張し、その慧眼に『少年』の父親は、驚きと共に喜びを表したが、またまた、アメリカやイタリア等は、強制的に1時間先の未来に連れて行かれたり、1時間昔に戻されたりすることがある、それも一瞬にして、と謎のようなことを云い出し、日本でもかつてそうであったことがあり、『4月か5月の第1土曜日の夜中24時に、1時間先の未来に連れて行かれ、9月の第2土曜日の25時になると、1時間昔に戻される』と法律で決められていたと説明した。しかし、『少年』には、『1時間先の未来に連れて行かれ、1時間昔に戻される』その『間』が何であるのか、理解できず、父親に訊いたところ、『サンマータイム』という返事があり、そこから『秋刀魚』という漢字の由来や、『さんま』は一文字の漢字では、魚偏に『祭』と書くこと等、『さんま』の漢字談義へと派生していっていたが、『少年』は、『サンマータイム』とは何か、という疑問に立ち戻り、『サンマータイム』を定めた法律は、正式には、『夏時刻法』と、『少年』の父親は、説明した。ところが、『少年』と『少年』の父親の会話は、そこから、『サンマー』が、実は『サマー』と発音するものであることから、英語の発音談義への移って行っていたのに、父親は、映画『ローマの休日』、そして、その主演女優『オードリー・ヘップバーン』や『ローマ字』の『ヘボン式』へと、また話を派生させていっていた。それをようやく、『少年』は、『サンマータイム』へと話を戻したが、『少年』の父親は、今度は、『キャサリーン・ヘップバーン』主演の映画『旅情』の原題は、『サマータイム』だと云いながらも、アメリカには『サマータイム』はないと、『少年』には納得のいくはずもないことを云い出してきたのだ。


「だって、アメリカも、『強制的に1時間先の未来に連れて行かれたり、1時間昔に戻されたりする』って、父さん、云ったじゃない」

「ああ、云ったな」

「それって、『サマータイム』でしょ!?」

「まあ、『サマータイム』と云えばそうであるだろうが、アメリカでは、『サマータイム』じゃないんだ」

「まさか、『サンマータイム』じゃないよね?」

「はははは!勿論、そうじゃないさ。アメリカでは、『サマータイム』のことを『デイライト・セイビング・タイム』(Daylight Saving Time)って云うんだ。『デイライト』(daylight)、つまり、日光、日照を『セイブ』(save)する、つまり、保つ、かなあ、『タイム』(time)、つまり、時間で、日照を保つ時間、といった意味で、所謂、『サマータイム』のことだな」




「へええ、『サマータイム』のことをそんな云い方をするんだね、アメリカでは。だったら、『旅情』の原題は、『サマータイム』じゃなく、その『デイライト・セイビング・タイム』(Daylight Saving Time)にすればよかったんじゃないのかなあ?」


と、『少年』は、八丁堀から牛田まで、随分、時間がかかったような気がする、という疑問に立戻らず、迂闊にも、映画の題名の問題に言及してしまった。



(続く)




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