2022年5月20日金曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その234]

 


「『サブタン』が、他の人たちの時間を止めて、色々な事件を解決していた間っていうのは、『サブタン』の時間は止っていなかった、ということになるのか?」


と、『サブタン』を主人公とする手塚治虫・原作のNHKテレビ・ドラマ『ふしぎな少年』について語る『少年』の父親の表情は、真剣なものであった。『牛田新町一丁目』のバス停を背にし、家族と共に、自宅へと向っているところであった。


「ええ?.....んんん…」


『少年』は、更に戸惑った。『時間が止る』ことを云い出したのは、父親の方なのに、『時間が止る』ことを否定しているように聞こえなくもないことを父親は云ってきたのだ。


その日(1967年に、山口県宇部市から広島市に引っ越して来た日)、八丁堀から牛田まで、随分、時間がかかったような気がする、と『少年』は疑問に思ったのであった。八丁堀から牛田まではバスで10分から15分くらいしかかからないのに、そんな時間ではとてもし切れない程のボリュームの話を父親から聞いたことを訝しく思い、その疑問に対し、『少年』の父親は、『アインシュタイン』の『相対性理論』を持ち出し、時間の進み方が遅かったのかもしれない、と答えた。しかし、『少年』はまだ納得できていないからか、『少年』の父親は、『閏年』があること、更には、『閏年』になるはずの年でも『閏年』にならない年もあることから、『1年』という時間は一定ではないと主張したものの、『少年』は、どこか誤魔化されている感を拭えないでいた。そこで、『少年』の父親は、日付変更線を越えることで、『昨日』にも『明日』にも行ける、と説明したかと思ったら、次に、1時間だけだが、日付変更線を越えなくても、『未来』や『過去』に行ける、とまで云い出した。それに対し、『少年』は、未来や過去を絵に描けばいい、そして、その未来を予見するには、自らが未来を創ればいい、と主張し、その慧眼に『少年』の父親は、驚きと共に喜びを表したが、またまた、アメリカやイタリア等は、強制的に1時間先の未来に連れて行かれたり、1時間昔に戻されたりすることがある、それも一瞬にして、と謎のようなことを云い出し、日本でもかつてそうであったことがあり、『4月か5月の第1土曜日の夜中24時に、1時間先の未来に連れて行かれ、9月の第2土曜日の25時になると、1時間昔に戻される』と法律で決められていたと説明した。しかし、『少年』には、『1時間先の未来に連れて行かれ、1時間昔に戻される』その『間』が何であるのか、理解できず、父親に訊いたところ、『サンマータイム』という返事があり、そこから『秋刀魚』という漢字の由来や、『さんま』は一文字の漢字では、魚偏に『祭』と書くこと等、『さんま』の漢字談義へと派生していっていたが、『少年』は、『サンマータイム』とは何か、という疑問に立ち戻り、『サンマータイム』を定めた法律は、正式には、『夏時刻法』と、『少年』の父親は、説明した。ところが、『少年』と『少年』の父親の会話は、そこから、『サンマー』が、実は『サマー』と発音するものであることから、英語の発音談義への移って行っていたのに、父親は、映画『ローマの休日』、そして、その主演女優『オードリー・ヘップバーン』や『ローマ字』の『ヘボン式』へと、また話を派生させていっていた。それをようやく、『少年』は、『サンマータイム』へと話を戻したが、『少年』の父親は、今度は、『キャサリーン・ヘップバーン』主演の映画『旅情』の原題は、『サマータイム』だと云いながらも、アメリカでは『サマータイム』のことを『デイライト・セイビング・タイム』(Daylight Saving Time)というのだ、と説明し、更には、『旅情』の原題である『サマータイム』は、『サマータイム』のことではなく、『サマー』という名前の人とも関係はないと、『少年』を混乱の渦の中で目眩を起こす程の状態とし、その『サマータイム』は、『夏時刻』の『サマータイム』ではなく、『夏』の『時』、『日々』を過ごす、といった感じのする言葉で、感覚的というか感傷的、感情的な装いを持つもの、という説明をしていた。その説明自体、感傷的なものであったように、後年(2021年になって)、少年ではなくなっていた『少年』は、思い出し、更に、父親の説明には、ある謎、もしくは予見が込められていたようにも感じたのである。だが、その時は(1967年)、父親が想像を超えたことを云い出だすとは、思いもせず、父親が使った大人びた言葉を使って、『濃密』な時間を過ごすと、人間は、時間を長く感じるものなんだね、と問うたところ、父親は、『時間が止る』という、まるで、テレビ・ドラマ『ふしぎな少年』の世界のようなことを云い出してきたのである。


「『サブタン』が時間を止めて事件を解決している間って、やっぱり、時間は止っていたんじゃないの?」

「では、人間は、時間が止っている間も、行動することはできるんだな?」

「『サブタン』はね」

「ああ、そうだろうな。そうでなかったら、止っている時間と止っていない時間とが同時に存在することになるからな。それは妙だ。でも、だ。人間が、時間の止っている間も、行動できる、としたら、『時間』って一体、何なんだ?」

「父さん!『サブタン』は、お話の世界の人間だよ」


『少年』は、尊敬する父親に対して、つい強い口調となってしまった。


「では、現実の、うーむ、多分、現実であろうことを訊こう。『ビックバン』って知っているか?」

「え?大きなパン?どうして、パンの話になるの?『サブタン』は、パン食べてたかなあ?」

「いや、『パン』じゃない。『バン』だ。爆発だ。『ビッグバン』は、大爆発だ」

「ああ、間違って日本に飛んできたミサイルを、『四次元のお姉ちゃん』が、アフリカの砂漠に移動させて爆発させたことだね」




『四次元のお姉ちゃん』は、漫画版の『ふしぎな少年』に登場する四次元の世界の人間である。


「いや、ミサイルで飛んでくる爆弾の爆発なんかじゃなく、もっとずっと、ずっと大きい爆発だ」


と云って、凝視めてきた父親の瞳孔に引き込まれる、ふしぎな感覚に『少年』は捉われた。



(続く)




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