2022年5月15日日曜日

【牛田デラシネ中学生】変態の作られ方[その229]

 


「『旅情』の原題である『サマータイム』は、『サマータイム』のことではないんだと思う」


と、『少年』の父親は、またしても、『少年』の思考に混乱しか招かないようなことを云い出した。『牛田新町一丁目』のバス停を背にし、家族と共に、自宅へと向っているところであった。


「アメリカの『デイライト・セイビング・タイム』のことでもない、ということなの?」


聡明な『少年』は、綴りは分ってはいなかったが、『デイライト・セイビング・タイム』(Daylight Saving Time)という言葉をすっかり自分のものとしていた。


八丁堀から牛田まで、随分、時間がかかったような気がする、と『少年』は疑問に思ったのであった。八丁堀から牛田まではバスで10分から15分くらいしかかからないのに、そんな時間ではとてもし切れない程のボリュームの話を父親から聞いたことを訝しく思い、その疑問に対し、『少年』の父親は、『アインシュタイン』の『相対性理論』を持ち出し、時間の進み方が遅かったのかもしれない、と答えた。しかし、『少年』はまだ納得できていないからか、『少年』の父親は、『閏年』があること、更には、『閏年』になるはずの年でも『閏年』にならない年もあることから、『1年』という時間は一定ではないと主張したものの、『少年』は、どこか誤魔化されている感を拭えないでいた。そこで、『少年』の父親は、日付変更線を越えることで、『昨日』にも『明日』にも行ける、と説明したかと思ったら、次に、1時間だけだが、日付変更線を越えなくても、『未来』や『過去』に行ける、とまで云い出した。それに対し、『少年』は、未来や過去を絵に描けばいい、そして、その未来を予見するには、自らが未来を創ればいい、と主張し、その慧眼に『少年』の父親は、驚きと共に喜びを表したが、またまた、アメリカやイタリア等は、強制的に1時間先の未来に連れて行かれたり、1時間昔に戻されたりすることがある、それも一瞬にして、と謎のようなことを云い出し、日本でもかつてそうであったことがあり、『4月か5月の第1土曜日の夜中24時に、1時間先の未来に連れて行かれ、9月の第2土曜日の25時になると、1時間昔に戻される』と法律で決められていたと説明した。しかし、『少年』には、『1時間先の未来に連れて行かれ、1時間昔に戻される』その『間』が何であるのか、理解できず、父親に訊いたところ、『サンマータイム』という返事があり、そこから『秋刀魚』という漢字の由来や、『さんま』は一文字の漢字では、魚偏に『祭』と書くこと等、『さんま』の漢字談義へと派生していっていたが、『少年』は、『サンマータイム』とは何か、という疑問に立ち戻り、『サンマータイム』を定めた法律は、正式には、『夏時刻法』と、『少年』の父親は、説明した。ところが、『少年』と『少年』の父親の会話は、そこから、『サンマー』が、実は『サマー』と発音するものであることから、英語の発音談義への移って行っていたのに、父親は、映画『ローマの休日』、そして、その主演女優『オードリー・ヘップバーン』や『ローマ字』の『ヘボン式』へと、また話を派生させていっていた。それをようやく、『少年』は、『サンマータイム』へと話を戻したが、『少年』の父親は、今度は、『キャサリーン・ヘップバーン』主演の映画『旅情』の原題は、『サマータイム』だと云いながらも、アメリカでは『サマータイム』のことを『デイライト・セイビング・タイム』(Daylight Saving Time)というのだ、と説明し、更には、『旅情』の原題である『サマータイム』は、『サマータイム』のことではないと、『少年』を混乱の渦へと落とし込んで行ったのであった。


「そうだ。『旅情』の原題である『サマータイム』は、『サマータイム』のことでも『デイライト・セイビング・タイム』でもないんだと思う」

「『キャサリン・ヘップバーン』が演じたアメリカ人女性の名前が、『サマー』で、『サマー』さんが過ごした『時間』で『タイム』ってことなの?」

「『サマー』という名前の人って、聞いたことないなあ。そんな名前の人っているかなあ?いや、きっといるとは思う」


という『少年』の父親の観測は正しかった。


『クリー・サマー』(Cree Summer)とか、『サマー・リン・グロー』(Summer Lyn Glau)、『サマー・ビシル』(Summer Bishil)、『サマー・アルティス』(Summer Altice)といったアメリカの女優やモデルが、その後に(1967年より後に)出てくるのである。


もっと有名な人物では、グラミー賞を5回も受賞する歌手『ドナ・サマー』(Donna Summer)もいるが(本名は、『LaDonna Andrea Gaines』である)、彼女もデビューは、1968年であり、この時はまだ『少年』の父親が、その存在を知るはずもなかった。


「日本人もそうだけど、色々な名前の人がいて、まさかというような名前の人だっているからなあ」


と付け加えた『少年』の父親の言葉は、21世紀に入ってから、日本人から『サマー』という名前の付く人物が登場することを予言していたものとも云えた。タレントの『ファーストサマーウイカ』である(本名は、『堂島初夏』で、『初夏』だから、『『ファーストサマー』であり『ウイカ』であるらしい)。




「でも、『旅情』の原題である『サマータイム』の『サマー』は、人の名前ではないはずだ」

「じゃあ、『旅情』の原題の『サマータイム』って、一体何なの?」


『少年』は、疑問の根本に立ち戻った。



(続く)




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