2018年2月21日水曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その12]


「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、自分は小学生ソフトボール・チームにいた頃、変化球を投げてくる相手ピッチャーは嫌いだった、と思った。


-------------------------------


1979年、エヴァンジェリスト氏が住んでいた上井草の下宿である。

その下宿は、台所スペース付の6畳一間であったが、6畳の間の横についたガラス扉を開けると1畳のスペースがあった。

カップうどん論争(『マルちゃんのカップうどんきつね』か、『赤いきつね』か、はたまた『どん兵衛』かという論争)で、友人であるエヴァンジェリスト氏を怒らせたビエール・トンミー氏は、

「ん、トイレいいかなあ」

とひとまずトイレに逃げることとし、6畳の間の横の1畳のスペースに入った。

そして、そこでファンシーケース(当時流行りの衣装ケースだ)の中に、ジャケットもセーターも歪むことなく、真っ直ぐに並べられている光景を見た。

そして更に、ファンシーケースの前に、読み終えられた新聞紙が、角を綺麗に、一分のズレもなく一直線にして積み重ねられ、保存されているのを見たビエール・トンミー氏は、思った。

「アイツも自分と同じく『曲がったことが嫌いな男』だとは思っていたが、アイツの『真っ直ぐ』は度を超している」

しかし、視覚から得たその思いは、嗅覚から来た別の衝撃にかき消された。

「しまった!」

思わず、左手の親指と中指とで自分の鼻をつまんだ。

「臭い!」

ビエール・トンミー氏は、自身の行動を悔いた。6畳の間の隣の1畳の間に入ると右手に木製の扉があり、その扉を見ながら、自身の失敗に気付いたのであった。






木製の扉を開けると、そこはトイレになっていたのだ。

扉はまだ開けていなかったが、1畳の間は、トイレの臭気が充満していた。

「そうだった。ここではトイレを使ってはいけなかったのだ」

エヴァンジェリスト氏の下宿のトイレは、ただ臭いのではなかった。猛烈に臭く、そして、その猛烈な臭さは、その構造からきていたのだ。

「トレイに入るのは止めようか」

ビエール・トンミー氏は、そう思ったが、今直ぐ6畳の間に戻ると、友人に『逃げた』ことがバレてしまう……..

それに、本当に少し尿意も催してきていた。





「ええいーっ!」

思い切って、木製の扉を開けた。

「ああーっ…..」

そのトイレを使うのは初めてではなかったので知ってはいたが、そのトイレの光景と、更に増した臭気とに、ビエール・トンミー氏は、打ちのめされた。


(続く)



0 件のコメント:

コメントを投稿