「エヴァさん、曲がれるよね?」
列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉に、エヴァンジェリスト氏の眼は、どこも見えている訳ではなかったが、点になった。
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1982年の冬である。
「エヴァさん、一緒に行ってくれない?」
オン・ゾーシ氏は、会社の同期だが4歳年上のエヴァンジェリスト氏に同行を依頼した。
「ああ、いいとも!」
『森田一義アワー 笑っていいとも!』の放送が始まる少し前であったはずで、エヴァンジェリスト氏は、流行りの言葉を先取りした。
オン・ゾーシ氏の依頼が、『共犯』の依頼であることは分っていたが、快諾した。その申し出は、エヴァンジェリスト氏にとってもメリットがあったのだ。
オン・ゾーシ氏は、ニキ・ウエ子さんと行くクルマへの同乗を頼んで来たのである。
同期でスキーに行くことになったのだ。スキー場には、夜行バスで行くことになったが、オン・ゾーシ氏は、ニキ・ウエ子さんとクルマで行きたかった。二人は、付き合っていた。
付き合っていることは、秘密にしていた。しかし、オン・ゾーシ氏は、エヴァンジェリスト氏にはその秘密を明かし、同乗、同行を依頼したのだ。
エヴァンジェリスト氏は、男らしい男であった。
『男らしい』とはどのようなものであるのかは不明であり、エヴァンジェリスト氏が、本当に『男らしい』男であるかどうかは定かではなかったが、秘密を打ち明けられたら、その秘密を他人に明かすようなことをする男ではなかった。
エヴァンジェリスト氏は、『曲がったことが嫌いな男』なのである。
そのことを、オン・ゾーシ氏は知っていた。
(続く)
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