2018年2月27日火曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その18]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、広島市内の少年ソフトボール大会の決勝で、9回裏2アウト、ランナーなしの状況から、『振り逃げ』に成功した自分は、次に打者の第1球に、今度も『真っ直ぐに』走り、盗塁に成功したことを思い出した。

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「うーっ!鼻がひん曲がるう!!!アイツめえ!ああ、この臭気の元は大部分、アイツの排出したものなのだあ」

1979年、上井草のエヴァンジェリスト氏の下宿の『汲み取り式便所』でのこと、『用』を足し、自身の『お宝』から放出した『お湯』が立ち上らせていた『湯気』が、しばしの間、臭気をかき消していたが(自身が放出した臭気は臭くない!)、その『湯気』が消えた今、再び、猛烈な臭気がビエール・トンミー氏を襲ったのだ。

急いで、便所の壁に立てかけていた便器カバーを取り、便器に被せた。

しかし、個室の中は、まだ『ダーク・マター』とも呼ぶべき臭気に満たされていた。

息を止めたまま、急いで『汲み取り式便所』の扉を開け、1畳の間の出ると、即、今度はガラス戸を開け、6畳の部屋に戻った。

「ウオーッ!」

ビエール・トンミー氏は、虚空に叫び声を上げた。






「な、な、なんだ?驚くじゃあないか」

エヴァンジェリスト氏は、ただならぬ様子でトイレから戻ったビエール・トンミー氏に、怯えたように声を掛けた。

「君は、本当に『曲がったことが嫌いな男』なのか?」
「ああ、ボクは『真っ直ぐな』人間だ」
「この嘘つきめ!『マルちゃんの赤いきつね』かなんか知らないが、『真っ直ぐ』に並べたり…」
「おいおい、『マルちゃんのカップうどんきつね』『赤いきつね』と混ぜて云うのはよせ」
「ファンシーケースの中も、ジャケットもセーターも歪むことなく、『真っ直ぐ』に並べたり…..」
「おい、ボクのファンシーケースの中を見たのか、エッチ!
読み終えられた新聞紙も、角を綺麗に、一分のズレもなく一直線にして積み重ねたり、と君の『真っ直ぐ』は度を超していると思っていた」
「おいおい、まさか重ねた新聞紙の中の方を見てはいないだろうな?」
「ん?」
「いや、まあ、いい…..それよりも、本当に『曲がったことが嫌いな男』なのか、と云ったかと思えば、『真っ直ぐ』が度を超していると云ったり、君は何を云いたいのだ?」
「ココの『便所』は、『鼻が曲がる』じゃあないか!」
「曲がっているのは、君の『お宝』ではないのか?」
「え!?....な、なんで、それを….」
「図星のようだな。右か左か?」
「そんなことはどうでもいい。君はよくあんな『鼻がひん曲がる』便所を使っているな。『曲がったことが嫌いな男』が笑わせるぜ」
「ああ、君は使わなかったのだな」
「は?何を使うのだ?」
「消臭剤さ。便槽に入れるのだ。トイレの隅の方に置いておいたんだがな」

当時(1979年の頃)、東京では『汲み取り式便所』は数が少なくなっていたはずであるが、まだなくはなかった。地方では、まだまだ『汲み取り式便所』はあったであろう。

その為、便槽に入れるタイプの消臭剤が売られていたのだ。キンモクセイの香りが多かったようにも記憶する。その為、エヴァンジェリスト氏は、今でもキンモクセイの香りがすると、トイレを連想する。

「消臭剤でダークエネルギーを消滅させるのさ、ハハハハハ」





何がおかしいのか、エヴァンジェリスト氏は高笑いをした。

「何を云っているのか、分からん!もういい、ボクは帰る!」

そう云うと、ビエール・トンミー氏は、エヴァンジェリスト氏の下宿の玄関(と云っても、ただ扉があるだけだが)に向った。

エヴァンジェリスト氏が訳の分からぬことを云うのに呆れたからでもあるが、それよりも何よりも、『汲み取り式便所』の猛烈な臭気が鼻について離れなかったのだ。

早く『汲み取り式便所』から逃れたかった。ビエール・トンミー氏の鼻は、『ひん曲がった』ままだったのである。

ビエール・トンミー氏は、その後、『変態』となるが、『常人』から『変態』へと道を『曲げる』ことになった切っ掛けは、友人の下宿の『汲み取り式便所』であったと考える。


(続く)



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