「エヴァさん、曲がれるよね?」
列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いたエヴァンジェリスト氏は、『いや、俺は真っ直ぐな男だ』と思った。
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1979年、エヴァンジェリスト氏は、上井草から上池袋に転居してきた。
上井草駅の北側にある下石神井商店街を抜けた先の民家の離れに下宿していたが、その下宿は、ビエール・トンミー氏が伝説を作った場所である。
買ったばかりのフォルクスワーゲンの『ビートル』で側まで来たものの、エヴァンジェリスト氏の下宿の前の道への交差点を曲がることができなかったのだ。
幾度か、いや幾度もハンドルを切ってようやく角を曲がってエヴァンジェリスト氏の下宿に到着することができた。
無理無理曲がってしまったからか、『曲がったことが嫌いな男』であったはずのビエール・トンミー氏は、その日、嫌いな『曲がった』ことをしてしまった。
エヴァンジェリスト氏の下宿前に『ビートル』を駐車していたが、帰ろうとすると、バックミラーに駐車違反ロックが付けられていたのだ。
免許を取って初めてクルマを運転したその日に、『犯罪』を犯してしまったのだ。
しかし、エヴァンジェリスト氏の下宿の部屋にいる間は、自身の『犯罪』にまだ気付かず、ビエール・トンミー氏は、自分だけではなく友人(エヴァンジェリスト氏)も『曲がった』ことが嫌いなのだなあ、と思っていた。
ビエール・トンミー氏は、友人の本棚を眺めた。その本棚には、エヴァンジェリスト氏も『曲がったことが嫌いな男』であることを示すものが置かれていたのだ。
(続く)
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