「(嘘じゃないんだ。ボクは、洗濯が好きなんだ)」
バスローブが中で回る洗濯機の中を見るとはなしに見ながら、ビエール・トンミー氏は思う。
「(いや、洗濯が好きなことは嘘ではないが…)」
しかし、ビエール・トンミー氏は、『己を見る』男であった。友人のエヴァンジェリスト氏が、修士論文『モーリアック論』のテーマとしてあげた『己を見る』ということを実践する男、いや、実践せざるを得ない男、自身を誤魔化すことはできない男であった。『原罪』を知る男なのだ。
「(このバスローブを家内に洗わせる訳にはいかないんだ…)」
ビエール・トンミー氏は、バスローブにある『染み』が付いていることを知っている。
「(あの時だ)」
『染み』が付いた瞬間は分っていた。
「(『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』のあの瞬間だ)」
前夜もビエール・トンミー氏は、独りきりの自室で、『インモー』研究をしていたのだ。風呂上りでバスローブ姿であった。
「(家内は、知らない…)」
ビエール・トンミー氏が、NHKの番組『ヒューマニエンス』の『”体毛”を捨てたサル』を録画し、コマ送りして見ていたことを知らない。番組内で流された映画『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』で金髪女性の『インモー』が映り、目ざとくそれを見つけたビエール・トンミー氏は、コマ送りで『インモー』が映った瞬間を確認していたのだ。
「(『ヒューマニエンス』は、西洋美術関係の番組ではないが、『体毛』というからには『インモー』も出てくるだろうと思っていたが、ビンゴだった!)」
(続く)
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