[ベンツで灯油(続き2)]
「今、ベンツで灯油を買いに来た夫婦もんは、君のまわしものか?」
と、スーパーの駐車場で夜間の灯油の給油担当をしているエヴァンジェリスト氏が、友人のビエール・トンミー氏に、更に挑戦的なiMessageを送ったのは、気付いたからであった。
「(ベンツ!)」
その夜、灯油の給油に来た夫婦が乗ってきて、給油ステーションの前に止めたクルマが、ベンツだったのだ。そして、ビエール・トンミー氏は、ベンツ・オーナーであった。
「遅いぞ!」
灯油券を買って戻ってきた夫人に夫が、怒りの言葉を投げつけた。
「だって、レジ混んでるんだものお」
反論しながら、夫人は、夫に灯油券を渡した。
「はい」
と、夫は、夫人から受け取った灯油券をエヴァンジェリスト氏に差し出した。ポリタンクは、給油台の脇に置かれたままだ。
「……」
エヴァンジェリスト氏は、無言で夫を見たが、夫は横を向いている。仕方なく、ポリタンクを給油台に乗せ、給油を始めた。ポリタンクを給油台に乗せるのは、客であるのが常識であった。ポリタンクを給油ステーションに置いて灯油券を買いに行く客は少なくなく、給油担当は、給油ステーションに置かれたポリタンクがどの客のものであるのか判別できるとは限らない。
エヴァンジェリスト氏が給油している間に、給油ステーションの前を通ろうとした他のクルマが、ベンツが邪魔で、先に進めなくなり、クラクションを鳴らした。
「うるせえな」
夫は呟いた。
「はい、キャップをお確かめ下さい」
エヴァンジェリスト氏は、ポリタンクのキャップがちゃんと締まっているかの確認を夫に促した。確認は、客の務めである。給油ステーション前にも、そう張り紙がしてある。クルマの中で灯油がこぼれた場合の責任を店側で負うことのないようにである。
「はあ」
とだけ云うと、夫は、キャップの確認をせず、ポリタンクをベンツのトランクに入れ、ベンツの後ろに止って待っいるクルマをチラと睨むと、運転席に戻り、ベンツを発進させた。
その後ろ姿をエヴァンジェリスト氏は、睨みつけていた。
(続く)
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