「相変らずくどい奴だなあ、君は。『殿堂』、『殿堂』と五月蝿いぞ。だからあ、ボクは、『怪人の殿堂』にも『変態の殿堂』にも関心はない!」
と、ビーエル・トンミー氏は、iPhone X のiMessage送信ボタンを強く押した。
「『怪人の殿堂』とか『変態の殿堂』とか、小さなジャンルの『殿堂』ではないんだ。君が入るのは、『「プロの旅人」の殿堂』さ」
エヴァンジェリスト氏が、ようやく『殿堂』の正体を明かした。
「ふん!どっちにしても興味はない。何に感化されて『殿堂』なんて云い出したのか知らんが、『「プロの旅人」の殿堂』なんて入るもんか」
「いや、入る入らない、はないぞ。君が『「プロの旅人」の殿堂』に入ることはもう決まっているみたいだぞ」
「決まっているみたい、だなんて他人事のような云い方をするな。ボクは、『「プロの旅人」の殿堂』入りなんて、断固辞退する」
「ええ!?辞退するのか?本当か?それはあ…君、本当に大変だなあ」
「はああ?何が大変なんだ。『「プロの旅人」の殿堂』なんてものには入らないだけのことだ」
「「プロの旅人」の殿堂』入りを辞退するには、手続が必要なんだ」
「へ?手続?」
「そうだ。『辞退』申告書を『「プロの旅人」の殿堂』会に提出しないといけないんだ」
「ふ・ざ・け・る・なー!それじゃ、まるで市民税・県民税の申告と同じじゃないか!」
「ルールだから仕方ないんだ。でも、辞退しない方がいいんじゃないかなあ。奥様のこともあるし」
「は?はあ、はあ、はああ?何だ?家内のことって?」
「君のところにまだ案内が届いていないとすると、奥様にも届いていないと思うが、奥様も『「プロの旅人」の殿堂』会入りが決まっているみたいなんだ。奥様が、『「プロの旅人」の殿堂』会メンバーなのに、夫である君がそのメンバーを辞退するのもどうかなあ」
「な、な、なんで家内が、『「プロの旅人」の殿堂』入りなんだ!?」
「最近の『バスローブの男』での功績が認められたようだ。『ナメクジ』プロレスというものを世に知らしめたんだものなあ」
「家内を勝手に、あんなオゲレツ女として描きおって!」
「いや、最最終回の『いいわ!私を落としてえ!』なんて、感動とオゲレツのダブル・スパイラルでなかなかのものだったと思うぞ」
「そんなことはどうでもいい。家内の分もまとめて辞退する!」
「いや、まとめて辞退はできないんだ。『辞退』申告には、本人の同意、本人の署名と面接も必要なんだ。『「プロの旅人」の殿堂』会は、何かと世帯単位でコトを進めようとするどこかの国とは違って、個人を重視するらしい」
「ええー!ダメだ、ダメだ、ダメだ!『プロの旅人』なんてオゲレツBlogの存在を家内に知られる訳にはいかん!そこにボクが登場していること、変態として登場していること、家内自身もそこで『ナメクジ』プロレスをしていることを知られてはまずい!頼む、『「プロの旅人」の殿堂』会に入るから、家内のところに『「プロの旅人」の殿堂』会入りの案内が届かないようにしてくれ!頼む、我が友よ!」
ビーエル・トンミー氏は、顰めっ面でiPhone X のキーボードをトントントーンを打ち、友人というか脅迫者のエヴァンジェリスト氏に対して、iMessageを送信した。そして、
「ふうう…」
と溜息をついた時であった。
「アータ、何、『デンドー』って?」
いつの間にか、台所にいたはずの妻が、リビング・ルームに来ており、ビーエル・トンミー氏のiPhone X を覗き込むようにしてきていた。
「いや、なんでもない。….あ、まさか何か案内でも来たのか?」
ビーエル・トンミー氏は、iPhone X の画面を消しながら、妻に訊いた。
「さっきから『デンドー』、『デンドー』ってブツブツ云ってたけど」
「ええ?....ああ、そうかあ」
恍けてみせた。案内は届いてないらしく、安心した。
「長州力のTwitterでも見てたの?一年前に設立した『プロレス殿堂』会のメンバーの天龍、藤波との写真が載ってるみたいだから」
「ああ、そうだよ」
と、テキトーに妻に話を合わせたものの、ある疑問が浮かんだ。
「(え!?どうして、家内は、長州力のTwitterなんて知ってるんだ。長州力のTwitterを見ているのか?まさかあ….家内は、プロレス好きなのか?『バスローブの男』の家内は、アイツの妄想の産物だと思っていたが…」
と、自分を凝視める妻の視線に気付いた。その視線は、
「(いいわ!私を落としてえ!)」
と云っているように思え、シンコクの人は、シンコクの表情を浮かべた。
(おしまい)
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