[ベンツで灯油(続き)]
「今、ベンツで灯油を買いに来た夫婦もんは、君のまわしものか?」
と、エヴァンジェリスト氏は、ビエール・トンミー氏に、更に挑戦的なiMessageを送った。
夜、スーパーの駐車場で、灯油の給油の仕事をしている自分を気遣って、
「おー、今夜も寒いで。明日からも益々寒くなるじゃろう。お体にご自愛してぇや」
というiMessageを送ってきた友人に対してである。
エヴァンジェリスト氏は、そのスーパーでは、請負業務として、灯油の給油だけではなく、カートやカゴの整理、ゴミの整理(ペットボトルと発泡スチロールのトレイ、牛乳パックの回収)もしていたが、お客様の中には、カートをカート置き場ではなく、駐車場のテキトーなところに置きっぱなしにしたり、買った肉を抜いた空きトレイをカゴに入れたままにしてあったり、ペットボトルのゴミ箱に空き瓶を平気で入れたり、と迷惑な者が少なくない。そういった困った客の生態を、
「君のまわしもんだなあ!?」
と、いつも、友人の悪巧みとして、ビエール・トンミー氏にiMessageを送っていたのだ。
その日は、灯油の給油ステーション前にクルマが止り(そこは駐車場のクルマの通路だから止めてはいけないのに)、夫が赤い灯油のポリタンクを2つ、トランクから取り出し、持って来た。夫人は、スーパーのレジに灯油券を買いに走った。
「18リットル2つね」
夫は、タメ口で給油台の上に、ポリタンクを置いた。
エヴァンジェリスト氏は、自分が云われたからではなく、サービス業の人に対し、タメ口をきく者が嫌いだ。
「あ、すみません。他のお客様がお見えになるかもしれませんので」
と、ポリタンクを台から下ろした。給油するに必要な灯油券がまだないのに、自分以外に客はいないという想定でいる者を愚かだと思う。
「……」
夫は、無言でスーパーの出入口の方を見た。夫人が灯油券を早く買ってこないか、と思っているのだろう。
「(お!)」
その時、エヴァンジェリスト氏は、初めて気付いた。
(続く)
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