[ベンツで灯油]
『サウンド:ハロー』の着信音があった。
軍手を外し、ズボンの右ポケットからローズゴールドのiPhpne SE(第1世代)を取り出した。
「おー、今夜も寒いで。明日からも益々寒くなるじゃろう。お体にご自愛してぇや」
妙な関西弁のiMessageは、友人のビエール・トンミー氏からのものだ。
「うっ……」
不覚にも喉の奥を詰まらせてしまった。
「(おお、我が友よ!すまん)」
と、エヴァンジェリスト氏は、自らのiPhpne SE(第1世代)に向けて、その中に、というか、その電波の先にいる友人に、詫びるように感謝した。自分の身を気遣ってくれているのだ。
しかし…
「『お体にご自愛』は誤用だぞ。『ご自愛』と云う言葉自体で、自分の体を大切に、という意味なんだぞ」
心の思いとは裏腹に、喧嘩をふっかけるような返信をした。エヴァンジェリスト氏は、その夜、スーパーの駐車場で灯油の給油担当をしていた。
(参照:【緊急報告】『スーパー・マン』は、『スーパーマン』か!?[前編])
屋外の作業である。寒い。灯油は臭く、臭いが服に、軍手越しの手に、そして、文字通り鼻に付いて取れなくなる。時給は、1013円、東京都の最低賃金である。
ビエール・トンミー氏が、その状況をどの程度、把握し、理解しているかは分らなかったが、普段は、『プロの旅人』に描かれている通り、クダラナイことばかり云ってくるものの、今送られてきた『お体にご自愛』という言葉には、嘘は勿論、皮肉も嫌味もなく、純粋に友を思う気持ちが込められていることは、分っていた。
なのに…
(続く)
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