2017年4月30日日曜日

コンコルドは舞う(その2)【変態老人の悪夢】




拉致されたものの救出され、コンコルドに乗って帰国の機上でのことであった。

ビエール・トンミー氏は、『彼女』を和室に連れ込み、『いよいよ』という時……..




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和室に入り、襖を閉めると、俺は、『彼女』の手をとり、『彼女』の体を胸元に引き寄せた。

いや、引き寄せようとした、その瞬間、俺と『彼女』は二人共、大きく体を傾け、壁まで転がった。

機体が傾いたのだ。急に左側に傾いたのだ。

背中を強く壁にぶつけた俺は、「うーっ」と呻いたが、その痛みを忘れさせる芳しい香りが俺の鼻を包んだ

俺の体の上に乗っかるようになっていた『彼女』の香りであった

コンコルドに何か緊急事態が起きたようであったのに、俺は俺の体の緊急事態の方を気にしていた。

「いいや、このまま….」

と思ったその時、襖が開き、

「お客様、トンミー様。非常事態です!」

CAが叫んできた。

「パイロットが…」

CAはフランス人女性であった。言葉もフランス語であったが、大学のフランス語経済学で「優」をとった俺は、CAのフランス語を完璧に理解した。

フランス語経済学は、読んで訳すだけの学科であったが、何故かCAのフランス語を完全に聞き取れた。

フランス語経済学の「優」を取れたのも、試験前に友人でありフランス文學者であるエヴァンジェリスト氏に試験範囲を翻訳してもらい、それを丸暗記した結果に過ぎなかったが、コンコルド機内で俺はフランス語の達人になっていた。

CAは唾を飛ばしながら、俺に云った。

「パイロットが変です。機長も副操縦士もコックピットにはおらず、客席に座っているんです!」
「え!?どういうことだ?」
「分かりません。今、この機を操縦しているには、当社のパイロットでないことは確かなのです
「機長も副操縦士は何をしているのだ?」
「客席で食事を摂っています。ワインも飲んでいます」
「何を考えているのだ!」
「どうにかして下さい、トンミー様!」



「分った」

何故、俺がこの非常事態への対応を求められ、それに応じないとならないのか、全く分らなかったが、そんな疑問に囚われている場合ではない。

「ここで待っていてくれ」

俺は『彼女』に声をかけた。

「アタシは大丈夫。ビエールこそ、気をつけてね」

『彼女』は、俺とCAとのフランス語会話を理解していた。だって、『彼女』は、西洋美術史の研究家なのだ。博士号だって持っているのだ。

そうか、『彼女』は、『彼女!』であったのか。今、俺はそれを理解した。

しかし、今はとにかく、コックピットに向かわなければいけなかった。


(続く)




コンコルドは舞う(その1)【変態老人の悪夢】




「いいのか、いいのか?」

歓びに、あるところが硬くなるのを感じながらも自問した。

左隣の席に座る『彼女』は、両手で俺の左手を握りしめていた。

「怖いの、ビエール」

『彼女』は『事態』に怯えていた。

「大丈夫さ、俺がついている」

俺は、『彼女』の耳元に口を寄せ、ささやくように云った。『彼女』の頭髪から芳しい香りがし、俺のあるところは更に硬くなった。

『彼女』は頭を傾け、俺の肩に乗せてきた。

俺は堪らなくなってきて、『彼女』の唇を俺の唇で塞ぎたくなってきた。しかし……

「いや、マズイ」

周りは皆、会社の連中だ。皆で拉致されていたのだ。しかし、無事救出され、今、コンコルドで帰国するところなのだ。





「???」

そこで、俺は疑問を抱いた。

「何故、会社の連中がいるのだ?」

そうだ、俺はもうリタイアした身だ。59歳で退職し、もう3年も経っているのだ。

なのに、何故、会社の連中と一緒にいるのだ。

俺は、もっと根本的な疑問は抱かず、会社の連中がコンコルド機内に一緒にいることに疑問を持っていた。

誰に、何故、拉致され、どうやって救出されたのか?何故、もう退役して10年以上も経つコンコルドに乗っているのか?.....ということよりも、会社の連中が周りにいることの方が気になっていた。

「怖いのビエール」

救出されてもまだ緊張感に満たされた機内の雰囲気に、『彼女』は再びそう云った。

体を更に俺に寄せ、ミニスカートから出た『彼女』の膝が俺の脚に密着してきた。

破裂しそうであった。しかし.ここではマズイ。ここはコンコルド機内だ。しかも周りにいるのは皆、会社の連中なのだ。

「何故、会社の連中と一緒にいるのだ?」

会社の連中は皆、俺が結婚していることを知っている。妻のことも知っている。

だって、妻とは社内恋愛で結婚したのだ。しかも妻は、会社のマドンナであったのだ。妻のいるマーケティング部には、用もないのに男性社員たちが頻繁に顔を出していたのであった。

そのマドンナを落とした俺は、羨ましがられ、そして妬まれた。

その俺が今、妻ではない『彼女』と恋人然としていることを同僚たちに、いや元同僚たちに知られてはマズイのだ。

しかし、しかし、しかし……..

「優しく包んで。アタシを守って」

『彼女』のその言葉に俺は、限界を超えた。

「ああ、包んでやるとも!」

俺は、シートベルトを外し、そして、『彼女』のシートベルトも外し、直ぐそばにある和室に『彼女』を連れて行った

疑問は持たなかった。

何故、コンコルド機内に和室があるのか?そんなことはどうでも良かった。元同僚たちにどう思われようと良かった。

俺は、和室の襖を閉めた。『いよいよ』であった。

だがその時……..



(続く)







2017年4月29日土曜日

トラック野郎は、俺だ!(後編)【変態老人の悪夢】




『トラック野郎』のビエール・トンミー氏は、壊れたハイヒールを持ち、ふらふらと歩く『彼女』を「拾い」、自身が運転するデコトラの助手席に乗せていたのであった。




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そうだ、俺は『彼女』を知っていた。

『彼女』は……….


彼女は、セツコだった。38歳だ。

自ら名乗ったり、年齢を告げたりするどころか、一言も口をきいてくれていなかったが、彼女はセツコであり、38歳であった。

妙だが、夢の中のことなのだから仕方がない。

街道で「拾った」ばかりであり、勿論、初対面であったが、俺は彼女を知っていた。

彼女は、セツコだったが、セツコではなかった。

彼女は、●●●子先生だ。俺がオープンカレッジで西洋美術史を学んでいる真野講師だ。憧れの美人講師だ。

セツコは、●●●子先生に似ている、というよりも●●●子先生そのものだ

その証拠に、デコトラの助手席に座りながら、セツコは、いや●●●子先生は、俺に西洋美術史を教え始めていた

セツコは●●●子先生だ、等と考えていたと思ったら、●●●子先生は俺に、ドラクロワ、インモー、天国の門、アトリビュート等を教えてくれていた。

感激だ。プライベート・レッスンだ。

教えてくれていた内容は、既に習ったものであったが、勉強は復習が大切だ。有難い。

有難いが、俺の眼は、やはり●●●子先生の膝もとにいっていた

時々、視線を上げて、先生の唇を凝視めた。

薄いピンクの紅が塗られた先生の唇は、インモ~とでも云っているのか、横に広がったり、丸く尖ったりしてした。

その唇が、声を発した。これまでも声は発していたのだろうが、俺の耳には今、初めて聞こえたのだ。

「暑いわ」

先生の首からダイヤモンドにも俺には見えた大粒の汗が流れ、ボートネックのサマーセーターの中に入っていった。

その汗の行く先を思い、俺は唾を飲み込んだ。

自分が、興奮から臭いも発したことを感じた。

マズイ!俺は臭い。俺も汗をかいているし、今、興奮フェロモンも発してしまったことを感じた。

しかも、俺はパジャマを着ていた。俺は、寝るときだけではなく、起きてからも、更には外出時にも、パジャマを着たままだ。

もう3ヶ月も着たままだ。絶対臭っているはずだ。マズイ!

しかし、●●●子先生も眼で俺の首筋の汗を追っていた。愛おしそうに

俺はまた唾を飲み込んだ。喉仏が、ゴクリと動いた。

俺の喉仏の動きを見て、先生は、ピンクの紅の唇を舌で舐めた

「俺は男だ」

この汗臭いオトコに先生は参ったのか…….

俺はもう前を向いて運転していなかった。

マズイ、と思い、前方を向いた瞬間、前から別のデコトラがこちらに向かってきていた

「は、は、反対車線に入ってしまったのだ、ぶつかるう!」

と、目をつぶった…….

….と、

「シャワー浴びてきていいかしら」

という声が聞こえた。眼を開けた。

俺はベッドの上で胡座をかいていた。

「何が起きたのだ」

俺はまた、夢の中で記憶を辿った。

夢の中に記憶というものがあるものなのか疑問をもう持たず、俺は思い出した。

デコトラの中で、先生は俺に云った。

「トンミーさんはいつも勉強熱心ねえ」

先生は俺の名前を知っていたのか。

「この前の講義、欠席なさったでしょ。ボッティチェリの1回目だったわ」

そうだ、『ヴィーナス誕生』の講義を俺は楽しみにしていたが、急用で行けなかったのだ。

「個人授業しましょうか。でも、汗かいちゃったから、次のインターを降りたところのホテルで汗を流したいわ」

インターを降りたところのホテルって、そういうホテルではないか!




先生は、次のインターを降りたところにホテルがあることを何故、知っているのか?

いや、その前に俺のデコトラはいつの間に「高速」を走っていたのだ。

街道を走っていて、対向車線に入ってしまい、別のデコトラをぶつかるところだったではないか、と疑問を持った記憶もなくはなかったが、そんなことはどうでもよかった。

先生とホテルに入ることを考えただけで俺は目が眩んだのであったのだ。

…そうして、俺は先生とそういうホテルに入り、

「シャワー浴びてきていいかしら」

と先生が艶かしい声をかけてきたのだ。

「俺も一緒にシャワーを浴びたい」

と云ったが、

「トンミーさんは、そのままがよろしくてよ。汗いっぱいのままの方が」

そうか、やはり先生は、俺の汗臭いオトコに先生は参ったのだ!

俺は期待に胸を膨らませた。アソコも膨らませた。俺はもう堪らなくなっていた。

と、鼻に熱いものが走った。鼻血だ!鼻血が出るう!

その瞬間、俺はのけぞった。のけぞり、ベッドに背から倒れ込んだ。

「鼻血でシーツが赤く染まる」

と思ったが、その時、俺は新幹線の運転台に座っていた。

500型「のぞみ」の運転をしていたのだ。

「?」

何が起きたのか、判らなかった。

助手席を見た。助手席は畳まれており、運転台には先生はいなかった。

シャワーを浴び終えた先生がバスタオルを体に巻いて運転台にいるのでは、と滅裂な期待を持ったが、運転台には俺しかいなかった。

しかし、俺はホッとした。残念な気持ちもあったが、ホッとした。

「俺は妻を裏切らなかった」

そうだ。あのままホテルにいたら、俺は先生の「個人授業」を受けていただろう。

「ボッティチェリの『ヴィーナス』ってこうよ」

と、先生は自らの体を使って、『ヴィーナス』を再現してくれていただろう。

そうすると、俺は「一線」を超えてしまっていただろう。

だが、俺は妻を愛している。

先生と「一線」を超えたいという欲望も強かったが、その一方で、俺が変態であることも知らず、結婚して30年近くも経つのに未だ清純なままの妻への愛情も強かった。

「俺は妻を裏切らなかった」

俺は、ホッとしていた。

その時、俺は、新幹線の脇を走る街道を左手に、一足の壊れたハイヒールを持ち、裸足でつま先立ちで歩く女を見た。●●●子先生だ!

しかし、デコトラと異なり、新幹線では先生を「拾う」ことはできない。

「いいのだ。いいのだ、これで」


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「アータ、起きてえ。そろそろお昼にするわよ」

再び、妻の声が聞こえた。

まだ、11:45だ。

妻の声に目覚めたビエール・トンミー氏は、快感と良心の呵責とが入混ざった複雑な感覚に、まだベッドから立ち上がることができないままでいた。

「アータ、アータの好きな長くて太いウインナーもあるわよ」

妻は可愛い。妻は恥じらいから、そう云ったのだ。

長くて太いウインナーが好きなのは、ビエール・トンミー氏ではなく妻の方なのだ。

「俺は妻を裏切らなかった。夢の中だが、俺は妻を裏切らなかった」

安堵したビエール・トンミー氏はようやくベッドから立ち上がり、ダイニング・ルームに向かった。


(おしまい)






2017年4月27日木曜日

トラック野郎は、俺だ!(中編)【変態老人の悪夢】





「アータ、起きてえ。そろそろお昼にするわよ」

という妻の声に目覚めたビエール・トンミー氏であったが、快感と良心の呵責とが入混ざった複雑な感覚に、ベッドからしばらく立ち上がることができなかったのであった。

「トラック野郎になっていた.....」のであった。




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デコトラの助手席に『彼女』は座っていた。

俺は、運転しながら、『彼女』の膝もとにばかり目がいっていた

もっと前を見て運転しないとまずい、とは思ったが、『彼女』の脚が気になって仕方がなかったのだ。

セツ子は(『彼女』のことだ)、かなり短めのミニスカートをはいていた。

いつから『彼女』は、助手席に座っていたのだろうか。

俺は、夢の中で記憶を辿った。

夢の中に記憶というものがあるものなのか疑問ではあったか、俺は思い出した。

地方の街道の左側の路肩を『彼女』は、歩いていた。

左手に一足のハイヒールを持っていた。裸足でつま先立ちに近い歩き方であった。ややふらついていた。

そして、気付くと、『彼女』は、俺のデコトラの助手席に座っていたのだ。

多分、俺はデコトラを止め、『彼女』に声をかけたのであろう。

「お嬢さん、どうなさいました?」

そして、ハイヒールが壊れたのなら、何処か靴屋のあるところまでお送りしましょう、とでも云って、『彼女』をデコトラに乗せたのであろう。

そこまで夢を思い出し、俺は赤面した。誰が見ている、というでもないのに。

壊れたハイヒールを持ち、ふらふらと歩く『彼女』は、やや刺激的な丈のミニスカートだったのだ。

その後ろ姿には、清純だが、色気があった。顔は見えなかったが、俺の中のなにがしかの期待が固く、膨らんだ。

だから、声をかけたのだ。

目覚めた今も身体のある部分に、通常の状態とは異なるある変化が見られた。

例え夢のことであろうと、嘘はつけない。

俺には、ああ、下心があった。

そして、助手席に座った『彼女』の顔は、その下心の期待に違わぬものであった。

清純だか色気を漂わすミニスカートの後ろ姿そのままの顔立ちであった。

少女のようだが、どこかオトコを惑わす愁のある顔立ちであった。

可憐だ、綺麗だ、セツコ…….





『彼女』は、名乗ってはいなかったが、何故か俺は『彼女』がセツコであることを知っていた。

『彼女』は、名乗らないだけではなく、一口も口をきいていなかった。

デコトラに登ってくる時も、そして、助手席に座ってからも、「有難う」の言葉一つ、『彼女』からはなかった。

しかし、失礼とは思わなかった。それよりも、助手席に座ったことにより、より伸びやかに見える『彼女』の脚のことが気になって仕方なかった

「誘っているのか、セツコ…..セツコ….」

と声にならない呟きを吐きながら、俺はふと思った。

「何故、セツコなんだ?......いや、『彼女』を俺は知っているぞ」

そうだ、俺は『彼女』を知っていた。

『彼女』は……….


(続く)






2017年4月26日水曜日

トラック野郎は、俺だ!(前編)【変態老人の悪夢】



「アータ、起きてえ。そろそろお昼にするわよ」

11:45だ。

妻の声に目覚めたビエール・トンミー氏であったが、快感と良心の呵責とが入混ざった複雑な感覚に、ベッドからしばらく立ち上がることができなかった。

「トラック野郎になっていた.....」

そうだ。ピエール・トンミー氏は、今しがたまで見ていた夢の中で、デコトラを運転していたのだ。

頭に手拭いを巻いていた。

汗臭かったが、自身はその臭いに酔っていた。

「俺は男だ」

この汗臭いオトコに『彼女』は参ったのだろう…….(ふふ)





ピエール・トンミー氏の快感も、良心の呵責も、いずれも『彼女』に起因したものであったのだ。



(続く)



2017年4月25日火曜日

【珍宝ミサイル警報】デンデン首相の深謀




サンボン国に「珍宝ミサイル警報」場合の行動についての指針が出たと聞き、

「無駄だ」

と「珍宝の國」の國皇ビエールは、呟いた。


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サンボン国は、隣国である「珍宝の國」から、「珍宝ミサイル」(いや「ミサイル珍宝」であろうか)がいつ放たれるか分らない状況になった。

そこで、サンボン国政府は内閣官房のWebサイトに「珍宝ミサイル警報」場合の行動についての指針を出したのだ。


「Hアラート」(変態アラート)システムで警報が出たら、女性たちは、


【屋外にいる場合】
○ 近くの
できるだけ頑丈な男の人の陰に隠れるか、 地下街などに避難する。
○ 近くに適当な男の人がいない場合は、
物陰に身を隠す股間に手を当て守る。 

【屋内にいる場合】 
○ できるだけ窓から離れ、できれば窓のない部屋へ移動し、ついつい興味を惹かれて外を見ることのないようにする。 


という行動をとるように、というのだ。


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「無駄だ」

「珍宝の國」の國皇ビエールは、北叟笑んだ。

「珍宝ミサイル」である『トンミー弾』の魅力からは、逃れることはできないのだ。頑丈な男の人の陰に隠れても、地下街に避難しても。

窓から外を見ないようにしても、つまり『トンミー弾』を見ないようにしたところで(その魅力にクラクラしないようにしても)、『トンミー弾』は芳しい『臭い』を放つのだ(『匂い』ではなく、それは間違いなく『臭い』だ)。

その『臭い』は、戸の隙間、窓枠の隙間から屋内に忍び込むのだ。

『トンミー弾』は、並みの「珍宝」ではないのだ。「ミサイル警報」なんて、並みの「ミサイル」(珍宝)しか防げないのだ。




「愚かなデンデン首相よ」

しかし、愚かであったのは、「珍宝の國」の國皇ビエールの方であった。

サンボン国首相のデンデンは、この「珍宝ミサイル警報」でサンボン国国民に危機意識を強く持たせ、「緊急辞退法」を成立させ(「辞退」は、デンデン首相のメモに記載されたものである。デンデン首相は、漢字が苦手なのだ。本人にその自覚はないようだが)、憲法をも超えた超法規的な権限を自らが持てるようにしたいのだ。

デンデンは、「珍宝の國」への非難を口にしながら、その実は、「珍宝の國」の國皇ビエールに感謝しているのだ。







2017年4月24日月曜日

【再建策】石原プロを救うのは、君だ!



「君のせいだろ?」

いつものこととはいえ、友からのいきなりの非難に、エヴァンジェリスト氏は戸惑いを見せた。

「君がいつまでたっても動かないからだ」

ビエール・トンミー氏が、云いたいことは分っていた。そして、友人の非難に、全く身に覚えがない、とは云いきれないことを自覚していたのだ。だから、戸惑ってしまったのだ。

『まき子夫人から電話が入らないから』なんて云うのは言い訳に過ぎない」


長年噂されてきた石原プロモーションの『解散』が、いよいよ真実味を帯びてきたのだ。


「仲川常務、いや、元常務の件に君は絡んでいるのか?」
「仲川さんとは面識はない」
「本当か?渡さんは、会社を畳む気持ちらしいが、それは、詰まるところ、いつまでたっても君が石原プロに入ってくれないからではないのか?
「ボクにはボクの事情があるのだ」
「今の石原プロは、舘ひろしだけで持っていると云ってもいい状態だ。その窮状を救えるのは、君ではないか」
「徳重くんや金児くん、池田くん、宮下くんがいる。神田穣くんや、岩永ジョーイくん、増本尚くんだっているじゃあないか」
「本気で云っているのか?『21世紀の石原裕次郎を探せ!』の受賞者や『石原プロ次世代スター発掘オーディション』に受賞者を世間のどれだけの人たちが知っていると思っているのだ」
「君はよく知っているな」
「君との関係から知らざるを得なくなっただけだ。君なら、舘ひろしを超えられる。渡さんさえも凌駕できるだろう。いや、それ以上の存在に君ならなるだろう。失礼ながら、裕次郎さんの存在さえも霞ませるだけのスター性を君は持っている
「今のボクにはその期待は重すぎる」
「分っている。君は病気だ」
「そうだ、そうなのだ」
君が『仕事依存症』であることはよく知っている。君は、今の会社で仕事をし過ぎていたのだ。産業医の先生からは、『仕事を余りするな』と云われているのだろ。それは知っている。しかし、産業医の先生は、君に、職場を変えることも勧めているはずだ




「君は何故、そのことを知っているのだ?」
ボクは、君の唯一人の友人だ。君のことならなんでも知っている。そして、君は君でボクのことを一番理解してくれている。ボクの『変態』の良き理解者だ。だから、ボクは君の為に一肌脱ぐ覚悟はできているのだ」
「何をしてくれると云うのだ?」
「君が本心では石原プロ入りすることを望んでいることは知っている。しかし、病気のこともあり、不安があるのだろう。だったら、ボクも一緒に石原プロに入ろうではないか!
「おー、友よ!」
「君を一人にはしないよ、エヴァ」
「おー、ビエール!」
「石原プロで、ボクが君のマネージャーになろうではないか」
「泣けるぜ、友よ。…しかし、お願いがある」

それまで項垂れてばかりいたエヴァンジェリスト氏が頭を上げた。そして、強い眼光をビエール・トンミー氏に放った。

「はあ?.....な、な、なんだ?」
「ボクの病気が落ち着くまでの間、君はボクのマネージャーではなく、君自身が前面に立ってくれないか
「何を云いだすのだ」
「ボクよりは劣るとはいえ、君にはそれだけの美貌がある」
「君に劣るとは思っていないが….」
「その美貌を活かすのだ。『怪人探偵』ってシリーズをテレビ、映画で放映するのだ」
「おお、君はやはりプロデューサー能力もあるのだな。小林専務を認めながらも批判していただけのことはある」
「『怪人探偵』にはペット相棒をつけようではないか」
「ペット相棒?」
「『怪鹿』だ。『怪人探偵』と『怪鹿』とで、難問を解決していくのだ」





「おおおおお!『怪鹿』を相棒にするのか!斬新だ」
「そうだ、石原プロを救うのは、君だ!君なのだ!」

友を凝視めていたビエール・トンミー氏の両眼は今、妄想に空を泳ぎ始めた。















2017年4月23日日曜日

【コースケ】アマレスしよ、プロレスしよ(後編)



珍宝の國記念學院』と思しき學院の三年二組で、シンノスケが、どうやら、『アマレス』でも『プロレス』でも、気持ちいい、いや、楽しいらしいと判り、「シヨ」と、同級生のコウメに迫ると…..




「気持ちいい、ううん、楽しいのはいいかも、って思うけど、アンタとはイヤ!でも、プロレスすると、楽しくて、だから弟もできたんだって、それってヨクネ?弟のトシって可愛いだもの」
「楽しいとどうして弟ができるんだろ?」
「知らない」
「アマレスも楽しいから、だから、ウチのシゲコもできたのかな?」
「シゲコちゃんも可愛いものね」
「だから、コウメ、オレたちもアマレスでもプロレスでもいいからシヨ!きょうだい(弟妹)作ろ」
「この変態!アンタ、トンミーさんチのおじさんみたいね」
「オレ、パジャマは着てねえぜ」
「とにかく、アンタとはイヤ!........コースケ君とならいいかもだけど」

いきなり名前を呼ばれ、シンノスケとコウメのやり取りを口を開けて聞いていた少年は、思わず、顔を引き攣らせた。

「コースケ君チのお父さんとお母さんも、アマレスかプロレスしてるの?」

コースケは首を横に振った。父親と母親とが、アマレスもプロレスもしているとは思えなかった。

父親が、台所で夕飯の準備をしている母親の背後から抱きつこうとしてことはあった。しかし……

「何すんのよ、アンタ!」
「いいじゃないか」

父親はまだ迫ろうとした。

「ザケンナ!」

母親は左手に包丁を持ったまま振り向き、包丁を父親に向けた。

「刺すぞ!気持ち悪いことすんな!コースケができたんだから、もうシナクテいい!」

『コースケ(自分のことだ)ができたからもうシナクテいい』という意味はよく判らなかったが、自分の両親は、とてもアマレスもプロレスもしているとは思えなかった(コースケは、母親が他の奥さんたちに、シテナイことをあけすけに話していることを知る由もなかった)。




そんな両親の姿を見ていたので、『アマレス』でも『プロレス』でも、気持ちいい、いや、楽しいとは信じ難かった。

しかし……..

「コースケ君とならいいかもだけど」

とクラスのマドンナのコウメちゃんに云われると、コースケは、顔が赤らみ、体のあるところに異変が生じるのを感じた。

シンオスケやコウメちゃんと違い、コースケには、妹も弟もいなかった。それはどうやら、両親が『アマレス』も『プロレス』もしていないからのようだ。

だったら、自分がコウメちゃんと……..そうすれば、自分にも妹か弟ができるのだろうか。コースケの幼い頭は、そんな風に思った。

「コースケ君とならいいかもだけど」

頬をピンクに染めたコウメが繰り返した。




コースケの『体』はますます硬直したのであった。


(おしまい)