「アータ、起きてえ。そろそろお昼にするわよ」
という妻の声に目覚めたビエール・トンミー氏であったが、快感と良心の呵責とが入混ざった複雑な感覚に、ベッドからしばらく立ち上がることができなかったのであった。
「トラック野郎になっていた.....」のであった。
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デコトラの助手席に『彼女』は座っていた。
俺は、運転しながら、『彼女』の膝もとにばかり目がいっていた。
もっと前を見て運転しないとまずい、とは思ったが、『彼女』の脚が気になって仕方がなかったのだ。
セツ子は(『彼女』のことだ)、かなり短めのミニスカートをはいていた。
いつから『彼女』は、助手席に座っていたのだろうか。
俺は、夢の中で記憶を辿った。
夢の中に記憶というものがあるものなのか疑問ではあったか、俺は思い出した。
地方の街道の左側の路肩を『彼女』は、歩いていた。
左手に一足のハイヒールを持っていた。裸足でつま先立ちに近い歩き方であった。ややふらついていた。
そして、気付くと、『彼女』は、俺のデコトラの助手席に座っていたのだ。
多分、俺はデコトラを止め、『彼女』に声をかけたのであろう。
「お嬢さん、どうなさいました?」
そして、ハイヒールが壊れたのなら、何処か靴屋のあるところまでお送りしましょう、とでも云って、『彼女』をデコトラに乗せたのであろう。
そこまで夢を思い出し、俺は赤面した。誰が見ている、というでもないのに。
壊れたハイヒールを持ち、ふらふらと歩く『彼女』は、やや刺激的な丈のミニスカートだったのだ。
その後ろ姿には、清純だが、色気があった。顔は見えなかったが、俺の中のなにがしかの期待が固く、膨らんだ。
だから、声をかけたのだ。
目覚めた今も身体のある部分に、通常の状態とは異なるある変化が見られた。
例え夢のことであろうと、嘘はつけない。
俺には、ああ、下心があった。
そして、助手席に座った『彼女』の顔は、その下心の期待に違わぬものであった。
清純だか色気を漂わすミニスカートの後ろ姿そのままの顔立ちであった。
少女のようだが、どこかオトコを惑わす愁のある顔立ちであった。
可憐だ、綺麗だ、セツコ…….
『彼女』は、名乗ってはいなかったが、何故か俺は『彼女』がセツコであることを知っていた。
『彼女』は、名乗らないだけではなく、一口も口をきいていなかった。
デコトラに登ってくる時も、そして、助手席に座ってからも、「有難う」の言葉一つ、『彼女』からはなかった。
しかし、失礼とは思わなかった。それよりも、助手席に座ったことにより、より伸びやかに見える『彼女』の脚のことが気になって仕方なかった。
「誘っているのか、セツコ…..セツコ….」
と声にならない呟きを吐きながら、俺はふと思った。
「何故、セツコなんだ?......いや、『彼女』を俺は知っているぞ」
そうだ、俺は『彼女』を知っていた。
『彼女』は……….
(続く)
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