『珍宝の國記念學院』と思しき學院の三年二組で、シンノスケが、どうやら、『アマレス』でも『プロレス』でも、気持ちいい、いや、楽しいらしいと判り、「シヨ」と、同級生のコウメに迫ると…..
「気持ちいい、ううん、楽しいのはいいかも、って思うけど、アンタとはイヤ!でも、プロレスすると、楽しくて、だから弟もできたんだって、それってヨクネ?弟のトシって可愛いだもの」
「楽しいとどうして弟ができるんだろ?」
「知らない」
「アマレスも楽しいから、だから、ウチのシゲコもできたのかな?」
「シゲコちゃんも可愛いものね」
「だから、コウメ、オレたちもアマレスでもプロレスでもいいからシヨ!きょうだい(弟妹)作ろ」
「この変態!アンタ、トンミーさんチのおじさんみたいね」
「オレ、パジャマは着てねえぜ」
「とにかく、アンタとはイヤ!........コースケ君とならいいかもだけど」
いきなり名前を呼ばれ、シンノスケとコウメのやり取りを口を開けて聞いていた少年は、思わず、顔を引き攣らせた。
「コースケ君チのお父さんとお母さんも、アマレスかプロレスしてるの?」
コースケは首を横に振った。父親と母親とが、アマレスもプロレスもしているとは思えなかった。
父親が、台所で夕飯の準備をしている母親の背後から抱きつこうとしてことはあった。しかし……
「何すんのよ、アンタ!」
「いいじゃないか」
父親はまだ迫ろうとした。
「ザケンナ!」
母親は左手に包丁を持ったまま振り向き、包丁を父親に向けた。
「刺すぞ!気持ち悪いことすんな!コースケができたんだから、もうシナクテいい!」
『コースケ(自分のことだ)ができたからもうシナクテいい』という意味はよく判らなかったが、自分の両親は、とてもアマレスもプロレスもしているとは思えなかった(コースケは、母親が他の奥さんたちに、シテナイことをあけすけに話していることを知る由もなかった)。
そんな両親の姿を見ていたので、『アマレス』でも『プロレス』でも、気持ちいい、いや、楽しいとは信じ難かった。
しかし……..
「コースケ君とならいいかもだけど」
とクラスのマドンナのコウメちゃんに云われると、コースケは、顔が赤らみ、体のあるところに異変が生じるのを感じた。
シンオスケやコウメちゃんと違い、コースケには、妹も弟もいなかった。それはどうやら、両親が『アマレス』も『プロレス』もしていないからのようだ。
だったら、自分がコウメちゃんと……..そうすれば、自分にも妹か弟ができるのだろうか。コースケの幼い頭は、そんな風に思った。
「コースケ君とならいいかもだけど」
頬をピンクに染めたコウメが繰り返した。
コースケの『体』はますます硬直したのであった。
(おしまい)
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