「君のせいだろ?」
いつものこととはいえ、友からのいきなりの非難に、エヴァンジェリスト氏は戸惑いを見せた。
「君がいつまでたっても動かないからだ」
ビエール・トンミー氏が、云いたいことは分っていた。そして、友人の非難に、全く身に覚えがない、とは云いきれないことを自覚していたのだ。だから、戸惑ってしまったのだ。
「『まき子夫人から電話が入らないから』なんて云うのは言い訳に過ぎない」
長年噂されてきた石原プロモーションの『解散』が、いよいよ真実味を帯びてきたのだ。
「仲川常務、いや、元常務の件に君は絡んでいるのか?」
「仲川さんとは面識はない」
「本当か?渡さんは、会社を畳む気持ちらしいが、それは、詰まるところ、いつまでたっても君が石原プロに入ってくれないからではないのか?」
「ボクにはボクの事情があるのだ」
「今の石原プロは、舘ひろしだけで持っていると云ってもいい状態だ。その窮状を救えるのは、君ではないか」
「徳重くんや金児くん、池田くん、宮下くんがいる。神田穣くんや、岩永ジョーイくん、増本尚くんだっているじゃあないか」
「本気で云っているのか?『21世紀の石原裕次郎を探せ!』の受賞者や『石原プロ次世代スター発掘オーディション』に受賞者を世間のどれだけの人たちが知っていると思っているのだ」
「君はよく知っているな」
「君との関係から知らざるを得なくなっただけだ。君なら、舘ひろしを超えられる。渡さんさえも凌駕できるだろう。いや、それ以上の存在に君ならなるだろう。失礼ながら、裕次郎さんの存在さえも霞ませるだけのスター性を君は持っている」
「今のボクにはその期待は重すぎる」
「分っている。君は病気だ」
「そうだ、そうなのだ」
「君が『仕事依存症』であることはよく知っている。君は、今の会社で仕事をし過ぎていたのだ。産業医の先生からは、『仕事を余りするな』と云われているのだろ。それは知っている。しかし、産業医の先生は、君に、職場を変えることも勧めているはずだ」
(参照:フテイ愁訴【ビエール・トンミー氏の友情】)
「君は何故、そのことを知っているのだ?」
「ボクは、君の唯一人の友人だ。君のことならなんでも知っている。そして、君は君でボクのことを一番理解してくれている。ボクの『変態』の良き理解者だ。だから、ボクは君の為に一肌脱ぐ覚悟はできているのだ」
「何をしてくれると云うのだ?」
「君が本心では石原プロ入りすることを望んでいることは知っている。しかし、病気のこともあり、不安があるのだろう。だったら、ボクも一緒に石原プロに入ろうではないか!」
「おー、友よ!」
「君を一人にはしないよ、エヴァ」
「おー、ビエール!」
「石原プロで、ボクが君のマネージャーになろうではないか」
「泣けるぜ、友よ。…しかし、お願いがある」
それまで項垂れてばかりいたエヴァンジェリスト氏が頭を上げた。そして、強い眼光をビエール・トンミー氏に放った。
「はあ?.....な、な、なんだ?」
「ボクの病気が落ち着くまでの間、君はボクのマネージャーではなく、君自身が前面に立ってくれないか」
「何を云いだすのだ」
「ボクよりは劣るとはいえ、君にはそれだけの美貌がある」
「君に劣るとは思っていないが….」
「その美貌を活かすのだ。『怪人探偵』ってシリーズをテレビ、映画で放映するのだ」
「おお、君はやはりプロデューサー能力もあるのだな。小林専務を認めながらも批判していただけのことはある」
「『怪人探偵』にはペット相棒をつけようではないか」
「ペット相棒?」
「『怪鹿』だ。『怪人探偵』と『怪鹿』とで、難問を解決していくのだ」
「おおおおお!『怪鹿』を相棒にするのか!斬新だ」
「そうだ、石原プロを救うのは、君だ!君なのだ!」
友を凝視めていたビエール・トンミー氏の両眼は今、妄想に空を泳ぎ始めた。
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