「いいのか、いいのか?」
歓びに、あるところが硬くなるのを感じながらも自問した。
左隣の席に座る『彼女』は、両手で俺の左手を握りしめていた。
「怖いの、ビエール」
『彼女』は『事態』に怯えていた。
「大丈夫さ、俺がついている」
俺は、『彼女』の耳元に口を寄せ、ささやくように云った。『彼女』の頭髪から芳しい香りがし、俺のあるところは更に硬くなった。
『彼女』は頭を傾け、俺の肩に乗せてきた。
俺は堪らなくなってきて、『彼女』の唇を俺の唇で塞ぎたくなってきた。しかし……
「いや、マズイ」
周りは皆、会社の連中だ。皆で拉致されていたのだ。しかし、無事救出され、今、コンコルドで帰国するところなのだ。
「???」
そこで、俺は疑問を抱いた。
「何故、会社の連中がいるのだ?」
そうだ、俺はもうリタイアした身だ。59歳で退職し、もう3年も経っているのだ。
なのに、何故、会社の連中と一緒にいるのだ。
俺は、もっと根本的な疑問は抱かず、会社の連中がコンコルド機内に一緒にいることに疑問を持っていた。
誰に、何故、拉致され、どうやって救出されたのか?何故、もう退役して10年以上も経つコンコルドに乗っているのか?.....ということよりも、会社の連中が周りにいることの方が気になっていた。
「怖いのビエール」
救出されてもまだ緊張感に満たされた機内の雰囲気に、『彼女』は再びそう云った。
体を更に俺に寄せ、ミニスカートから出た『彼女』の膝が俺の脚に密着してきた。
破裂しそうであった。しかし.ここではマズイ。ここはコンコルド機内だ。しかも周りにいるのは皆、会社の連中なのだ。
「何故、会社の連中と一緒にいるのだ?」
会社の連中は皆、俺が結婚していることを知っている。妻のことも知っている。
だって、妻とは社内恋愛で結婚したのだ。しかも妻は、会社のマドンナであったのだ。妻のいるマーケティング部には、用もないのに男性社員たちが頻繁に顔を出していたのであった。
そのマドンナを落とした俺は、羨ましがられ、そして妬まれた。
その俺が今、妻ではない『彼女』と恋人然としていることを同僚たちに、いや元同僚たちに知られてはマズイのだ。
しかし、しかし、しかし……..
「優しく包んで。アタシを守って」
『彼女』のその言葉に俺は、限界を超えた。
「ああ、包んでやるとも!」
俺は、シートベルトを外し、そして、『彼女』のシートベルトも外し、直ぐそばにある和室に『彼女』を連れて行った。
疑問は持たなかった。
何故、コンコルド機内に和室があるのか?そんなことはどうでも良かった。元同僚たちにどう思われようと良かった。
俺は、和室の襖を閉めた。『いよいよ』であった。
だがその時……..
(続く)
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