2018年4月30日月曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その74]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、統合幕僚監部に所属する幹部自衛官がある国会議員に対して、「お前は国民の敵だ」と云ったと聞いた時、それは、ある意味で『真っ直ぐな』言葉であり、軍隊というものはそういうものだと思うようになることを、まだ知らなかった。


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1980年12月、上池袋の『3.75畳』の下宿でエヴァンジェリスト氏は、修士論文『François MAURIAC論』の執筆に集中していた。

François MAURIAC』(フランソワ・モーリアック)の最高傑作『蝮の絡み合い』(『Le Nœud de Vipères』)を境にフランソワ・モーリアックの小説は変わる、と捉えていた。

『蝮の絡み合い』の主人公であるルイは、憎悪と吝嗇に蝕まれた罪の人間であるが、彼は救いへと導かれた。

しかし、『蝮の絡み合い』以前の小説である『愛の砂漠』[Le désert de l' amour]で妻以外の女(マリア・クロス)に恋する医師クーレージュは、救われるに到らない。

また、『テレーズ・デスケイルー』[Thérèse Desqueyroux]の夫を毒殺しようとした『テレーズ・デスケイルー』も救われるに到らない。

『蝮の絡み合い』のルイと、医師クーレージュ、テレーズ・デスケイルーとの差異が生じた理由を、『罪人の復権』とでも呼ぶべき思想の有無と考える。

『罪人の復権』とでも呼ぶべき思想を、フランソワ・モーリアックは、『蝮の絡み合い』で初めて示した。

では、『罪人の復権』なる思想は、一体、如何なるものであるのか……

………………….このように、修士論文『François MAURIAC論』の執筆に没頭するエヴァンジェリスト氏には、空耳にでも

「あ……んん……」

という『哭き声』は聞こえなくなっていた。






エヴァンジェリスト氏は、医師クーレージュの独白に胸が詰まる。比喩的表現ではなく、実際に、肉体的に胸が詰まるのだ。

マリア、私は、貴女が思うようなものではないのだ。私は、ただただ浅ましい男なのだ。他の男たち同様、欲望に取り憑かれている男にすぎないのだ」

エヴァンジェリスト氏は、ペンを置き、右手で左胸を抑え、目を閉じた。

「クーレージュよ、貴方は、自分を知っている。己を見ている。貴方は苦しんでいる。でも、私は貴方の苦しみを知っている。私だって…..」

自分がモーリアックの小説を読むのは、医師クーレージュのように、己を見る、己の醜さを知っている作中人物たちの思いに触れたいからなのだ。彼らの苦しみを自らの身で体感することが、辛く、しかし、ある種の快感ともなるのだ。

そして、修士論文『François MAURIAC論』を書くことも、己の醜さを知り、それに苦しむモーリアックの作中人物たち思いを辿り、彼らに、

「貴方たちの苦しみを私は知っている。貴方たちだけではないのだ。私も同じなのだ。私の心も醜悪だ」

伝える行為なのであった。

それは、快感でもあったが、やはり辛い行為であった。医師クーレージュやルイの心中の叫びに共感することに、快感があったことは間違いないが、彼らの苦しみを共にすることは、肉体的な苦しみをエヴァンジェリスト氏に与えていたのだ。

その時、エヴァンジェリスト氏の耳に聞こえていたのは、もう、

「あ……んん……」

という『哭き声』ではなく、

「私は、ただただ浅ましい男なのだ」

という医師クーレージュの独白、彼の絶望であった。

エヴァンジェリスト氏は、苦しかった。だから、目を閉じ、右手で左胸を抑えたのである。

しかし、エヴァンジェリスト氏の身に、モーリアックの作中人物への共感による苦しみよりも遥かに強烈な苦痛が与えられるのだ。

(続く)


2018年4月29日日曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その73]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、統合幕僚監部に所属する幹部自衛官がある国会議員に対して、「お前は国民の敵だ」と、ある意味で『真っ直ぐな』言葉を発するようになることを、まだ知らなかった。


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1983年、エヴァンジェリスト氏は、上池袋の『3.75畳』の下宿に高熱の看病を理由に連れ込んだ『女』を自らの布団の中に引きづり込み、

「☆!※♯£⊆%」

と哭かせていた。

「しっ!静かに!『声』が他の部屋に聞こえると迷惑をかける」
「だったら、『声』を出させなけりゃいいでしょ」
「ボクは、『曲がったことが嫌い』なんだ」
「だから、他の部屋の迷惑になるようなことは初めからしなけりゃいいのよ!」

『女』から叱責されだが、エヴァンジェリスト氏は怯まなかった。

『山』に登り始めて途中で止めるなんて『曲がったこと』はできない」
「この屁理屈男!」

しかし、女性は、それ以上、エヴァンジェリスト氏に逆らわなかった。なんだかだと云って、女性は、エヴァンジェリスト氏のことが愛おしかったのだろう。

「☆!※♯£⊆%」

『哭き声』が、他の部屋に聞こえたかどうかは、定かではない。

他の部屋の住人たちが、押入れに半身を入れ、天井に耳をすませていたかもしれないが、『山』登りに夢中なエヴァンジェリスト氏には、そこに気を使うことができなくなっていた。

「☆!※♯£⊆%」

『山』も荒々しい『登山者』を受け止めるのに、必死で、自らの『哭き声』の音量を調節する余裕はなかった……..






1980年12月、

「あ……んん……」

という『哭き声』は、もう聞こえなくなっており、エヴァンジェリスト氏は、再び、修士論文『François MAURIAC論』の執筆に集中するようになっていた。

エヴァンジェリスト氏は、修士論文『François MAURIAC論』で主に、François MAURIAC』(フランソワ・モーリアック)の最高傑作『蝮の絡み合い』(『Le Nœud de Vipères』)を論じていた。

『蝮の絡み合い』を境にフランソワ・モーリアックの小説は変わる、と捉える。

『蝮の絡み合い』をフランソワ・モーリアックがある重要な思想に到達したことを示す作品とし、その思想の何たるかを論じる為、『蝮の絡み合い』とそれ以前の作品(『愛の砂漠』[Le désert de l' amour]や『テレーズ・デスケイルー』[Thérèse Desqueyroux]等)を比較考察し、また、『蝮の絡み合い』以降の小説も考察しようとしていた。

『蝮の絡み合い』の第1章を、『罪人の消滅』と捉えていた。

『蝮の絡み合い』の主人公であるルイは、憎悪と吝嗇に蝕まれた罪の人間であるが、彼は救いへと導かれた。

しかし、『愛の砂漠』で妻以外の女(マリア・クロス)に恋する医師クーレージュは、救われるに到らない。



夫を毒殺しようとした『テレーズ・デスケイルー』も救われるに到らない。

『蝮の絡み合い』のルイと、医師クーレージュ、テレーズ・デスケイルーとの差異は、何より生じたのか?

エヴァンジェリスト氏は、それを『罪人の復権』とでも呼ぶべき思想と考える。

『罪人の復権』とでも呼ぶべき思想を、フランソワ・モーリアックは、『蝮の絡み合い』で初めて示したのだ。

では、『罪人の復権』なる思想は、一体、如何なるものであるのか……

………………….このように、修士論文『François MAURIAC論』の執筆に没頭するエヴァンジェリスト氏には、空耳にでも

「あ……んん……」

という『哭き声』は聞こえなくなっていた。


(続く)





2018年4月28日土曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その72]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、『テロ』は『犯罪』だが、『戦争』は必ずしも「犯罪』ではないという、『曲がったことが嫌いな男』である彼には理解できない考えが後に出てくることを、まだ知らなかった。


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「そこに山があれば登るんだ」
「アタシは、山じゃないわ」
「いや、気には素敵な『山』が二つある」
「バカ!」

しかし、エヴァンジェリスト氏は、女性の罵言を無視し、『山』に顔を埋めていった。

1983年、上池袋の『3.75畳』の下宿に高熱の看病を理由に連れ込んだ『女』を自らの布団の中に引きづり込んでいたのだ。

「☆!※♯£⊆%」

『山』が、鳴った。

「しっ!静かに!『声』が他の部屋に聞こえると迷惑をかける」
「だったら、『声』を出させなけりゃいいでしょ」
「ボクは、『曲がったことが嫌い』なんだ」
「だから、他の部屋の迷惑になるようなことは初めからしなけりゃいいのよ!」






『山』に登り始めて途中で止めるなんて『曲がったこと』はできない」
「この屁理屈男!」

しかし、女性は、それ以上、エヴァンジェリスト氏に逆らわなかった。なんだかだと云って、女性は、エヴァンジェリスト氏のことが愛おしかったのだろう。

『山』は、鳴った。

「☆!※♯£⊆%」

その『山』『哭き声』が、他の部屋に聞こえたかどうかは、定かではない。

他の部屋の住人たちが、押入れに半身を入れ、天井に耳をすませていたかもしれないが、『山』登りに夢中なエヴァンジェリスト氏には、そこに気を使うことができなくなっていた。





『山』も荒々しい『登山者』を受け止めるのに、必死で、

「☆!※♯£⊆%」

いう自らの『哭き声』の音量を調節する余裕はなかった……..


(続く)



2018年4月27日金曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その71]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、『戦闘』があるという報告があった地域であっても『戦闘地域』であるとは限らないと平気で言い逃れする権力者が出てくることをまだ知らなかったが、『自衛』の為の『戦争』は『戦争』ではないという、『曲がったこと』を平気で『曲がったこと』ではないとする国がこの世に存在することは、その時、既に知っていた。


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「あなた、熱あるんでしょ!」
「あるよ」

1983年、上池袋の『3.75畳』の下宿に、高熱の看病を理由に『女』を連れ込んだエヴァンジェリスト氏は、高熱を発しながらも、エヴァンジェリスト氏は、女性を自らの布団の中に引きづり込み、覆い被さったのだ。

「だったら、大人しく寝てるの!」
「いや、そうはいかない」
「そうはいく!」
「そこに山があれば登るんだ」
「アタシは、山じゃないわ」
「いや、気には素敵な『山』が二つある」
「バカ!」

しかし、エヴァンジェリスト氏は、女性の罵言を無視し、『山』に顔を埋めていった。






「☆!※♯£⊆%」

『山』が、鳴った。

「しっ!静かに!」


「何よ!」
「ボクは、『曲がったことが嫌い』なんだ」
「何を云いたいのよ!」
『声』が他の部屋に聞こえると迷惑をかける」
「だったら、『声』を出させなけりゃいいでしょ」
「ボクは、『曲がったことが嫌い』なんだ」
「だから、他の部屋の迷惑になるようなことは初めからしなけりゃいいのよ!」


(続く)



2018年4月26日木曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その70]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、非戦闘地域に行っていたはずの自衛隊の日報の中で、『戦闘』という記述が見つかってもその『戦闘』という表現については「何カ所か確認されたが、どのような意味を持つかは中身を見て判断いただきたい」と云う責任者がいることから、『曲がったこと』について、「(それが)どのような意味を持つかは中身を見て判断いただきたい」と云えば、『曲がったこと』を『曲がったこと』でなかったことにできるという考え方があることを知るようになることを、まだ知らなかった


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1983年、上池袋の『3.75畳』の下宿に、高熱の看病を理由に『女』を連れ込んだエヴァンジェリスト氏は、高熱を発しながらも、エヴァンジェリスト氏は、女性を自らの布団の中に引きづり込み、覆い被さり、自らの顔を女性の顔に近付けていった。

「やめろ!」

少し声を大きくして女性が叫んだが、動きを止めたエヴァンジェリスト氏が、諭すように云った。

「ダメだよ」
「ダメなのは、あなたの方よ」
「ボクは、曲がったことが嫌いなんだ」
「はあ?」
「他の部屋に聞こえる」

と云うと、エヴァンジェリスト氏は、発熱して少し前までうなされていた病人とは思えぬ身軽さで布団から抜け出し、半間の押入れまで行き、その押入れの襖を閉めた。

「何してんの?」
「聞こえるんだ」
「え?」
「声だよ。押入れの天井を通して、他の部屋に声が聞こえちゃうんだ」

と云いながら、エヴァンジェリスト氏は、布団の中に戻った。

「何の声が?」
「君の声だよ」
「何、云ってんの!?」
「いいから」
「よくない!」

しかし、エヴァンジェリスト氏は、自らの口で女性の口を塞いだ。






「んぐっ、んぐっ」

口を塞がれた女性は、もがいて顔を左右に振り、口の自由を得、息を継いだた。




「あなた、熱あるんでしょ!」
「あるよ」
「だったら、大人しく寝てるの!」
「いや、そうはいかない」
「そうはいく!」
「そこに山があれば登るんだ」
「アタシは、山じゃないわ」
「いや、気には素敵な『山』が二つある」
「バカ!」

しかし、エヴァンジェリスト氏は、女性の罵言を無視し、『山』に顔を埋めていった。


(続く)



2018年4月25日水曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その69]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、この世の中に「自衛隊が行かない地域が、非戦闘地域だ」という『捻じ曲がった』としか云いようのない言葉を平気で云う人を国民が支持し続けることを、まだ知らなかった


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「やめなさい!」

女性が再び、小声で叫んだが、エヴァンジェリスト氏は、自らの顔を女性の顔に近付けていった。

1983年、エヴァンジェリスト氏は、上池袋の『3.75畳』の下宿に、『女』を連れ込んでいた。

「辛い……熱がある。高い熱だ……」

と云って(実際に、高熱を発してはいたが)、その女性に電話して下宿まで来させていたのだ。

「いいんだ、いいんだよ。ボクは熱があって辛い。買い物もできない」

と云うエヴァンジェリスト氏の許に、女性は、

「分ったわよお!」

と怒りながらも駆けつけたのだ。

しかし、高熱を発しながらも、エヴァンジェリスト氏は、女性を自らの布団の中に引きづり込み、覆い被さり、自らの顔を女性の顔に近付けていったのであった。

「やめろ!」

少し声を大きくして女性が叫んだ。

「ダメだよ」

動きを止めたエヴァンジェリスト氏が、諭すように云った。






「ダメなのは、あなたの方よ」
「ボクは、曲がったことが嫌いなんだ」
「はあ?」
「他の部屋に聞こえる」

と云うと、発熱して少し前までうなされていた病人とは思えぬ身軽さで布団から抜け出し、半間の押入れに向かった。





そして、開け放したままになっていた押入れの襖を閉めた。

「何してんの?」

布団に仰向けになったままの女性が、エヴァンジェリスト氏に訊いた。

「聞こえるんだ」
「え?」
「声だよ。押入れの天井を通して、他の部屋に声が聞こえちゃうんだ」

と云いながら、エヴァンジェリスト氏は、布団の中に戻った。

「何の声が?」
「君の声だよ」
「何、云ってんの!?」
「いいから」
「よくない!」

しかし、エヴァンジェリスト氏は、自らの口で女性の口を塞いだ。


(続く)


2018年4月24日火曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その68]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、この世の中に「自衛隊が行かない地域が、非戦闘地域だ」という『捻じ曲がった』としかいいようのない言葉を平気で云う人が出てくることを、まだ知らなかった


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1983年のその時、確かにエヴァンジェリスト氏は、高熱を発し、エヴァンジェリスト氏は朦朧としたまま、上池袋の下宿を出て、明治通り沿いにある近くの公衆電話ボックスまで行った。

「辛い……熱がある。高い熱だ……」
「だからあ、私にどうしろ、と云うの?」

電話の向こうの女性は、イライラしていた。

「いいんだ、いいんだよ。ボクは熱があって辛い。買い物もできない」
「分ったわよお!」

女性は、そう言い放つと電話を切った。

それから1時間半あまりしてからであろうか、エヴァンジェリスト氏の上池袋の『3.75畳』の下宿に、その女性はいた。

「大丈夫?」
「ダメだあ……死ぬう……」
「だったら、死ねば」
「うう…..」
「本当に熱あるの?」
「あるよ」

と云うと、エヴァンジェリスト氏は、女性の手を取り、自らの額に当てた。

「ま、熱いのは熱いわね」

と女性が云う間も無く、エヴァンジェリスト氏は、取った女性の手をグイッと引き、女性を自らの布団の中に引きづり込んだ。

「何するの!」
「いいから」

と云うと、エヴァンジェリスト氏は、仰向けであった身を返し、女性の方を仰向けとした。

「やめなさい!」






仰向けとなった女性に覆いかぶさったエヴァンジェリスト氏は、口が半開きとなり、両の口の端にヨダレが滲んでいた。



「やめなさい!」

女性が再び、小声で叫んだ。

しかし、エヴァンジェリスト氏は、自らの顔を女性の顔に近付けていった。

「やめろ!」

少し声を大きくして女性が叫んだ。

「ダメだよ」

動きを止めたエヴァンジェリスト氏が、諭すように云った。


(続く)



2018年4月23日月曜日

【曲がったことが嫌いな男】石原プロに入らない?入れない?[その67]



「エヴァさん、曲がれるよね?」

列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、変態である友人ビエール・トンミー氏に、「『曲がったことが嫌いな』君は、女性に(奥様以外の女性に)、『今日ね、抱きしめていい?縛っていい?』とストレートに云うのではないか」と後に訊くと、「『オッパイ触っていい?』も必須ワードだぞ』と言い返されることになることを、まだ知らなかった


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1983年、エヴァンジェリスト氏は、『3.75畳』に『女』を連れ込み(いや、招き入れ)、ソレをする時、押入れの襖をキチンと締め、出来るだけ『女』に大きな『哭き声』を上げさせないよう気を付けることにした

安普請の下宿で他の部屋に聞こえるようにソレをしてはならない、と思ったのだ。

だったら、そもそもそんな安普請の下宿に『女』を連れ込まなければいいものであるが、

「不可抗力であった」

とエヴァンジェリスト氏は思う。

「だって、高熱が出ていたのだ」

1983年のその時、確かにエヴァンジェリスト氏は、高熱を発していた。

「辛い……熱がある。高い熱だ……」

エヴァンジェリスト氏は朦朧としたまま、下宿を出て、明治通り沿いにある近くの公衆電話ボックスにいた。

「だからあ、私にどうしろ、と云うの?」

電話の向こうの女性は、イライラしていた。

「いいんだ、いいんだよ。ボクは熱があって辛い。買い物もできない」
「分ったわよお!」

女性は、そう言い放つと電話を切った。






それから1時間半あまりしてからであろうか、エヴァンジェリスト氏の上池袋の『3.75畳』の下宿に、その女性はいた。

ジュースやら何やら食べ物を買って来ていた。

エヴァンジェリスト氏は、『3.75畳』ほぼ一杯に敷き詰められた布団に寝ていた。

女性は、他に座るところがなく、エヴァンジェリスト氏の寝る布団の端に膝を折って座った。

「大丈夫?」
「ダメだあ……死ぬう……」
「だったら、死ねば」
「うう…..」
「本当に熱あるの?」
「あるよ」

と云うと、エヴァンジェリスト氏は、女性の手を取り、自らの額に当てた。


「ま、熱いのは熱いわね」

と女性が云う間も無く、エヴァンジェリスト氏は、取った女性の手をグイッと引き、女性を自らの布団の中に引きづり込んだ。

「何するの!」
「いいから」
「いいからじゃないでしょ!」
「いいから」

と云うと、エヴァンジェリスト氏は、仰向けであった身を返し、女性の方を仰向けとした。

「やめなさい!」


(続く)