「エヴァさん、曲がれるよね?」
列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、この世の中に「自衛隊が行かない地域が、非戦闘地域だ」という『捻じ曲がった』としか云いようのない言葉を平気で云う人を国民が支持し続けることを、まだ知らなかった。
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「やめなさい!」
女性が再び、小声で叫んだが、エヴァンジェリスト氏は、自らの顔を女性の顔に近付けていった。
1983年、エヴァンジェリスト氏は、上池袋の『3.75畳』の下宿に、『女』を連れ込んでいた。
「辛い……熱がある。高い熱だ……」
と云って(実際に、高熱を発してはいたが)、その女性に電話して下宿まで来させていたのだ。
「いいんだ、いいんだよ。ボクは熱があって辛い。買い物もできない」
と云うエヴァンジェリスト氏の許に、女性は、
「分ったわよお!」
と怒りながらも駆けつけたのだ。
しかし、高熱を発しながらも、エヴァンジェリスト氏は、女性を自らの布団の中に引きづり込み、覆い被さり、自らの顔を女性の顔に近付けていったのであった。
「やめろ!」
少し声を大きくして女性が叫んだ。
「ダメだよ」
動きを止めたエヴァンジェリスト氏が、諭すように云った。
「ダメなのは、あなたの方よ」
「ボクは、曲がったことが嫌いなんだ」
「はあ?」
「他の部屋に聞こえる」
と云うと、発熱して少し前までうなされていた病人とは思えぬ身軽さで布団から抜け出し、半間の押入れに向かった。
そして、開け放したままになっていた押入れの襖を閉めた。
「何してんの?」
布団に仰向けになったままの女性が、エヴァンジェリスト氏に訊いた。
「聞こえるんだ」
「え?」
「声だよ。押入れの天井を通して、他の部屋に声が聞こえちゃうんだ」
と云いながら、エヴァンジェリスト氏は、布団の中に戻った。
「何の声が?」
「君の声だよ」
「何、云ってんの!?」
「いいから」
「よくない!」
しかし、エヴァンジェリスト氏は、自らの口で女性の口を塞いだ。
(続く)
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