「エヴァさん、曲がれるよね?」
列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、極めて親しい友人であり、『Monsieur Minitel au Japon(ムッシュウ・ミニテル・オ・ジャポン:日本のミスター・ミニテル)』と呼ばれるようになる男は、必死で日本に於ける『ミニテル』のビジネス・プランを書いたものの、日本に『ミニテル』を導入し、普及させることはできなかったが、その後も(2018年になっても)、『ミニテル』はインターネットよりも勝れたサービスである、と『真っ直ぐに』思い続けることを、まだ知らなかった。
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1980年、エヴァンジェリスト氏は、上池袋の下宿で、小用をたす為、部屋を出た時、下宿の一番奥の部屋に住む男とすれ違った。
その男は、廊下で会っても挨拶をすることもない男で、『フリーター』、のように見える醜男であった。
なのに、その男は、女を連れていた。
男の向こう側に、男に肩を抱かれ、長い髪で顔を隠すようにし、その顔を男の胸の寄せている女がいた。
「はあ~ん?」
『あの男』に『女』がいるのか?あの醜男にどうして?
中学生時代、下級生の女子生徒の憧れの的だった自分に今、『女』がいないのに、何故、あの醜男に『女』がいるのだ!
しかも、自分がモテていたのは、中学の時だけではなかった。
広島県立広島皆実高校に入学して間もない時であった。
「君、ちょっと」
休憩時間に、教室を出たところで、突然、上級生の女子生徒に声をかけられた。
「君、演劇部に入らない?」
その上級生は、広島皆実高校演劇部の部長であった。
「君に入って欲しいんだ」
演劇部の部長は、若きエヴァンジェリスト氏にそう云った。
そうだ。エヴァンジェリスト氏は、スカウトを受けたのだ。
「あ………」
エヴァンジェリスト氏は、そう唸るだけであった。
「考えてみて。君には是非、演劇部に入って欲しいんだ」
その後、
「どう?」
と、一、二度、部長に声をかけられたが、エヴァンジェリスト氏は、結局、演劇部には入らなかった。
その時、演劇部に入っていれば、エヴァンジェリスト氏が石原プロ入りするのに、回り道することはなかったかもしれない(エヴァンジェリスト氏は今もまだ石原プロ入りせず、回り道の途中にいるが……)。
「君、演劇部に入らない?」
と、演劇部の部長に云われた時、エヴァンジェリスト氏のその気が全くなかったと云うと嘘になる。
いや、演劇部に入りたかった訳ではない。運命を感じていたのだ。
いつからであったかは記憶にないが、エヴァンジェリスト氏は、いつか自分は役者、俳優になるような気がしていた。より正確に云うと、いつかスターになるような気がしていたのだ。
だから、
「君に入って欲しいんだ」
と、演劇部の部長に云われた時、エヴァンジェリスト氏は、ついにその日が来たのか、と思ったのだ。
しかし………
(続く)
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