「エヴァさん、曲がれるよね?」
列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、非戦闘地域に行っていたはずの自衛隊の日報の中で、『戦闘』という記述が見つかっても、その『戦闘』という表現については「何カ所か確認されたが、どのような意味を持つかは中身を見て判断いただきたい」と云う責任者がいることから、『曲がったこと』について、「(それが)どのような意味を持つかは中身を見て判断いただきたい」と云えば、『曲がったこと』を『曲がったこと』でなかったことにできるという考え方があることを知るようになることを、まだ知らなかった。
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1983年、上池袋の『3.75畳』の下宿に、高熱の看病を理由に『女』を連れ込んだエヴァンジェリスト氏は、高熱を発しながらも、エヴァンジェリスト氏は、女性を自らの布団の中に引きづり込み、覆い被さり、自らの顔を女性の顔に近付けていった。
「やめろ!」
少し声を大きくして女性が叫んだが、動きを止めたエヴァンジェリスト氏が、諭すように云った。
「ダメだよ」
「ダメなのは、あなたの方よ」
「ボクは、曲がったことが嫌いなんだ」
「はあ?」
「他の部屋に聞こえる」
と云うと、エヴァンジェリスト氏は、発熱して少し前までうなされていた病人とは思えぬ身軽さで布団から抜け出し、半間の押入れまで行き、その押入れの襖を閉めた。
「何してんの?」
「聞こえるんだ」
「え?」
「声だよ。押入れの天井を通して、他の部屋に声が聞こえちゃうんだ」
と云いながら、エヴァンジェリスト氏は、布団の中に戻った。
「何の声が?」
「君の声だよ」
「何、云ってんの!?」
「いいから」
「よくない!」
しかし、エヴァンジェリスト氏は、自らの口で女性の口を塞いだ。
「んぐっ、んぐっ」
口を塞がれた女性は、もがいて顔を左右に振り、口の自由を得、息を継いだた。
「あなた、熱あるんでしょ!」
「あるよ」
「だったら、大人しく寝てるの!」
「いや、そうはいかない」
「そうはいく!」
「そこに山があれば登るんだ」
「アタシは、山じゃないわ」
「いや、気には素敵な『山』が二つある」
「バカ!」
しかし、エヴァンジェリスト氏は、女性の罵言を無視し、『山』に顔を埋めていった。
(続く)
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