「エヴァさん、曲がれるよね?」
列のすぐ前にいた女性が振り向いて云ったその言葉を聞いた時、エヴァンジェリスト氏は、この世の中に「自衛隊が行かない地域が、非戦闘地域だ」という『捻じ曲がった』としかいいようのない言葉を平気で云う人が出てくることを、まだ知らなかった。
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1983年のその時、確かにエヴァンジェリスト氏は、高熱を発し、エヴァンジェリスト氏は朦朧としたまま、上池袋の下宿を出て、明治通り沿いにある近くの公衆電話ボックスまで行った。
「辛い……熱がある。高い熱だ……」
「だからあ、私にどうしろ、と云うの?」
電話の向こうの女性は、イライラしていた。
「いいんだ、いいんだよ。ボクは熱があって辛い。買い物もできない」
「分ったわよお!」
女性は、そう言い放つと電話を切った。
それから1時間半あまりしてからであろうか、エヴァンジェリスト氏の上池袋の『3.75畳』の下宿に、その女性はいた。
「大丈夫?」
「ダメだあ……死ぬう……」
「だったら、死ねば」
「うう…..」
「本当に熱あるの?」
「あるよ」
と云うと、エヴァンジェリスト氏は、女性の手を取り、自らの額に当てた。
「ま、熱いのは熱いわね」
と女性が云う間も無く、エヴァンジェリスト氏は、取った女性の手をグイッと引き、女性を自らの布団の中に引きづり込んだ。
「何するの!」
「いいから」
と云うと、エヴァンジェリスト氏は、仰向けであった身を返し、女性の方を仰向けとした。
「やめなさい!」
仰向けとなった女性に覆いかぶさったエヴァンジェリスト氏は、口が半開きとなり、両の口の端にヨダレが滲んでいた。
「やめなさい!」
女性が再び、小声で叫んだ。
しかし、エヴァンジェリスト氏は、自らの顔を女性の顔に近付けていった。
「やめろ!」
少し声を大きくして女性が叫んだ。
「ダメだよ」
動きを止めたエヴァンジェリスト氏が、諭すように云った。
(続く)
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