2019年2月27日水曜日

住込み浪人[その10]







「なーに、あの人?」

チェック柄のロング・スカートに七分袖のミルク・ティー色のニットのセーターを着た女子学生が、蔑むような眼差しを向けて呟いた…….少なくとも、そう云ったように、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年には聞こえた。

OK牧場大学の『住込み浪人』用の『寮』を出たところであった。

「(パジャマがバレたのか?)」

パジャマと云っても、茶色で、ジャージに近いものであり、パジャマとは見えないはず、と思っていたので、少々慌てた。

しかし…..女子学生と並んで歩いていた男子学生が云った言葉は、はっきり聞こえた。

「ああ、四田でジャージ着てる奴、初めて見たなあ」

チャコールグレイのジャケットの下に白いV字のシャツを着た男は、いかにも『OK牧場ボーイ』然とした学生であった。連れの女子学生も、いかにも『OK牧場ガール』然としていた。

「(う、うーっ!....パジャマであることはバレていないが、馬鹿にされた….ジャージ姿だと…..う、うーっ!)」

『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、カップルの学生を避けるように、顔を下に向け、歩を進めた。自分をバカにした男女の学生は、自分とは違う、明らかにセレブな格好をしていた。

「(ボクだって、本当は、良家の子女なんだ。でも、今はまだ浪人だから…..)」



確かに、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の父親は、大会社の高収入な役員であり、母親も高貴な血筋の家から嫁いで来ている。だから、彼も確かに『良家の子女』と云えた。

と……

「なーに、あの人?」

今度は、先程の女子学生のはっきりとした声が聞こえた。


(続く)



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