(住込み浪人[その9]の続き)
「なーに、あの人?」
チェック柄のロング・スカートに七分袖のミルク・ティー色のニットのセーターを着た女子学生が、蔑むような眼差しを向けて呟いた…….少なくとも、そう云ったように、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年には聞こえた。
OK牧場大学の『住込み浪人』用の『寮』を出たところであった。
「(パジャマがバレたのか?)」
パジャマと云っても、茶色で、ジャージに近いものであり、パジャマとは見えないはず、と思っていたので、少々慌てた。
しかし…..女子学生と並んで歩いていた男子学生が云った言葉は、はっきり聞こえた。
「ああ、四田でジャージ着てる奴、初めて見たなあ」
チャコールグレイのジャケットの下に白いV字のシャツを着た男は、いかにも『OK牧場ボーイ』然とした学生であった。連れの女子学生も、いかにも『OK牧場ガール』然としていた。
「(う、うーっ!....パジャマであることはバレていないが、馬鹿にされた….ジャージ姿だと…..う、うーっ!)」
『住込み浪人』ビエール・トンミー青年は、カップルの学生を避けるように、顔を下に向け、歩を進めた。自分をバカにした男女の学生は、自分とは違う、明らかにセレブな格好をしていた。
「(ボクだって、本当は、良家の子女なんだ。でも、今はまだ浪人だから…..)」
確かに、『住込み浪人』ビエール・トンミー青年の父親は、大会社の高収入な役員であり、母親も高貴な血筋の家から嫁いで来ている。だから、彼も確かに『良家の子女』と云えた。
と……
「なーに、あの人?」
今度は、先程の女子学生のはっきりとした声が聞こえた。
(続く)
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