2020年12月31日木曜日

バスローブの男[その63]

 


「(これだったのね!)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、自らの下半身の神経がビエール・トンミー氏から感じたものが何であるのかを知った。


「(ええ、プロレスには、つきものだわ)」


『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、ビエール・トンミー氏と、まるで『ナメクジ』のように、舌同士でコブラツシストを掛け合い、次いで、『ヒル』のように、またもや舌同士で『吸血攻撃』でせめぎ合っていたのだ。


「(これが、噂の…『原宿の凶器』だったのね!)」


会社の女性社員の間で、ビエール・トンミー氏が『原宿の凶器』と呼ばれていた理由が初めて判ったのだ。


「(トランクスの中に『凶器』を隠していたのね!)」


『凶器』が使われる前に、マダム・トンミーの下半身にあたり、彼女は、その存在を察知したのだ。悪役プロレスラーは、凶器をよくトランクスの中に隠しているものだ。


「(でも、どんな『凶器』なのかしら?...こんな大きな『凶器』をトランクスの中に隠していたなんて!)」


栓抜きとかボールペン、フォークといったよく使われる凶器とは違うものであるとは思った。







(続く)




2020年12月30日水曜日

バスローブの男[その62]

 


「(え、えっ!?)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、再び、下半身に何か固いものが当たるのを感じた。『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、ビエール・トンミー氏の舌が、マダム・トンミーの舌に『ヒル』のようにキューっと吸われ、声にはならない悲鳴を上げた時である。


「(これ、何なの?)」


今度は動きを止めず、『ヒル』攻撃を続けながら、下半身に神経を集中させた。


「(んぐっ!)」


ビエール・トンミー氏は、自らの体に『異変』が起きていることは分っていたが、それを治めることができないどころか、


「(んぐっ!んぐっ!)」


『異変』は、『ヒル』の『吸血』攻撃を受けているにも拘らず、


「(んぐっ!んぐっ!んぐっ!)」


と、逆に『充血』し、『膨張』していく。


「(ああー!....これ、…これえ…)」


マダム・トンミーの瞳孔が開いた。






(続く)



2020年12月29日火曜日

バスローブの男[その61]

 


「(え!?)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、下半身に何か固いものが当たるのを感じた。


「(何なの?)」


一瞬、動きを止め、下半身に神経を集中させた。『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、ビエール・トンミー氏とマダム・トンミーとは、口と口とを合せ、互いに自分の舌で相手の舌を巻きつけるように攻めあっていたが、マダム・トンミーの方の舌が、一瞬、止った。


「(おお!?...ええい!)」


ビエール・トンミー氏の舌も、相手の舌の動きが止ったことに驚き、一瞬、止ったが、相手の隙を見逃さず、止った相手の舌をキューっと吸うようにした。


「(ひゃっ!....ヒル!今度は、ヒルに変身なの?!)」


それまで『ナメクジ』と思っていたビエール・トンミー氏の舌が、マダム・トンミーには、『ヒル』になったように思えたのだ。


「(まるで、千の顔を持つ男『ミル・マスカラス』ね!それならこっちも!)」


マダム・トンミーの舌も相手の舌をキューっと吸うようにした。


「(私、吸血鬼よ。そう、ブラッシーよ!)」




マダム・トンミーは、自らを、自らの舌を、『吸血鬼』と称せられた極悪レスラー『フレッド・ブラッシー』に擬えた。『フレッド・ブラッシー』の現役時代を知っている訳ではなかったが、相手レスラーの血だらけになった額に噛みつき、その血を吸う『フレッド・ブラッシー』の画像は、何枚も見たことがあったのだ。


「(うっ……ヒー!)」


吸ったつもりの相手の舌に逆に、強くキューっと吸われ、ビエール・トンミー氏の舌は、声にはならなかったが、悲鳴を上げた。



(続く)




2020年12月28日月曜日

バスローブの男[その60]

 


「(おおー!)」


ビエール・トンミー氏も、思った。攻めていたはずの自分の舌が、相手の、つまり、『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』の舌から強烈な巻き付き返しを受けて、思ったのだ。


「(ナメクジだ!)」


そう、ビエール・トンミー氏もまた、自らの舌に巻き付いてくるものを『ナメクジ』と認識したのだ。『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、口と口とを合せ、互いの口の中に攻め入ってくる相手の舌を、ビエール・トンミー氏とマダム・トンミーとは共に、『ナメクジ』だと思ったのだ。


「(ヌルヌルだ!)」

「(ヌルヌルだわ!)」


2人の舌は共に、まさに『ナメクジ』が粘液を出し蠢くように、互いの口の中をぐしょぐしょにした。




「(んぐっ!)」


ビエール・トンミー氏は、自らの体にすでに生じていた『異変』が更に大きな『異変』となったのを感じた。



(続く)



2020年12月27日日曜日

バスローブの男[その59]

 


「(ええー!?私の?)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、気付いた。もう一匹の『ナメクジ』の正体に、である。『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、ビエール・トンミー氏に口を口で塞ぐ『窒息技』を掛けられた彼女の口の中に侵入してきた『ナメクジ』に敢然と立ち向っているもう一匹の『ナメクジ』……その正体を知ったのだ。


「(わ・た・しの『シタ』?...ええ?私の舌なの!)」


マダム・トンミーは、自分の舌に対してコブラツイストを掛けてくる『ナメクジ』に対し、くるっと回るようにコブラツイスト返しをしているもう一匹の『ナメクジ』が、自分の舌であることを初めて認識したのだ。


「(私の舌が、ナメクジ?......ってことは、んまあ!)」


マダム・トンミーは、もう一つの真実を認識した。


「(トンミーさん!アナタのなのね!アナタの舌なのね、私の舌を攻めるナメクジは!)」


と思っている間も、『ナメクジ』は、いや、ビエール・トンミー氏の『舌』は、もう一匹の『ナメクジ』に、いや、マダム・トンミーの『舌』にコブラツイストのように巻き付いてくる。




「(んん、もー!)」


マダム・トンミーの『舌』は、巻き付いてくるビエール・トンミー氏の『舌』から逃れながらも、逆にビエール・トンミー氏の『舌』に巻き付いていく。それまで以上に能動的に。



(続く)




2020年12月26日土曜日

バスローブの男[その58]

 


「(ええーい!)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、『ナメクジ』に立ち向っていった。場所は、『逆さクラゲ』の部屋である。いや、『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上である。いやいや、『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、ビエール・トンミー氏に口を口で塞ぐ『窒息技』を掛けられた彼女の口の中である。


「(ウーウー、ヌルヌルヌール!)」


マダム・トンミーは、ヌルヌルと口に中の侵入し、彼女の舌にコブラツイストを掛けてきた『ナメクジ』に対して、ヌルヌル返しを仕掛けていった。コブラツイスト返しだ。


「(へっ!)」


マダム・トンミーの口の中の『ナメクジ』は、反撃に遭い、一瞬怯んだが、


「(オオー、ヌルヌル、ヌルヌル、ヌルヌルヌール!)」


それまで以上に執拗なヌルヌル・コブラツイストを掛けていった。


「(ん、まあ!負けないわあ!)」


マダム・トンミーは、まさに負けじとヌルヌル返しをしていった。いや、マダム・トンミーの舌は、彼女の口の中に侵入してきた『ナメクジ』に敢然と立ち向っていったが…..


「(あら、もう一匹、ナメクジ…え!?)」


マダム・トンミーは、そう、気付いたのだ。『ナメクジ』に敢然と立ち向っていったのは、もう一匹の『ナメクジ』であった。そして、そのもう一匹の『ナメクジ』の正体を知った……




(続く)




2020年12月25日金曜日

バスローブの男[その57]

 


「(いやー!)」


信じられなかった。『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、信じられなかった。


「(トンミーさん!アナタ、口の中にナメクジを忍ばせていたのね!)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、ビエール・トンミー氏に『逆さクラゲ』の部屋の回転する円形ベッドに押し倒され、口を口で塞ぐ『窒息技』を掛けられ、回る天井を見ながら、口の中に侵入してきたものをナメクジと理解していた。


「(プロレスにナメクジを持ち込んだのは、アナタが初めてだわ!)」


マダム・トンミーは、口の中に侵入してきたものをナメクジと理解するだけではなく、自分とビエール・トンミー氏が体をぶつけ合っているのを未だプロレスと理解していたのだ。


「うぶっ…」


マダム・トンミーの舌をツンツンしたり、歯茎と頬の内側を、右へ左へと、上へ下へと動き回っていた『ナメクジ』が、マダム・トンミーの舌に本格的な攻撃を仕掛けてきた。コブラツイストを掛けるように、絡みついてきたのだ。




「(く、く、口の中でもコブラツイストなんて!)」


と思いながらも、マダム・トンミーの舌は、抗った。


「(掛けさせないわ!)」



(続く)




2020年12月24日木曜日

バスローブの男[その56]

 


「うぶっ…」


噎せた。『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、噎せた。『逆さクラゲ』の部屋の回転する円形ベッドの上で、ビエール・トンミー氏に口を口で塞ぐ『窒息技』を掛けられていたのであったが……


「ううーっ…うぶっ、うぶっ…」


『窒息技』を掛けられたまま、マダム・トンミーは、噎せた。


「(何!?これ…何!!!???)」


口の中に何かが侵入してきたのだ。


「うぶっ、うぶっ…」


侵入してきたものは、マダム・トンミーの口の中で自在に動き回っている。


「(え、ええーっ!)」


最初は、マダム・トンミーの舌をツンツンしていたソレは、今度は、マダム・トンミーの歯茎と頬の内側を、右へ左へと、上へ下へと動き回った。


「(ひ、ひえーっ!)」


今度は、歯茎の裏側を、上へ下へと、右へ左へと、動き回った。


「(ナ、ナ、ナメクジ!)」


そうだ。マダム・トンミーは、侵入してきたものをナメクジと認識した。




(続く)




2020年12月23日水曜日

バスローブの男[その55]

 


「(まさか、リングにまで仕掛けをしていたなんて、トンミーさん、アナタっていう人は!)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、『逆さクラゲ』の部屋のベッドをプロレスの円形リングと捉え、そこに押し倒され、更にそのベッドが、いや、リングが、回転することに驚愕した。


「(こんな仕掛けをしていいの!?ええ、いいのね!それがプロレスね!)」


回る天井に眩暈を覚えながら、マダム・トンミーは、思った。


「(そう、トンミーさんなら、何をやってもいいのね。前田日明が、『猪木だったら、何をやっても許されるのか』と云ったけど、いいのよ、猪木さんなら!いいのよ、トンミーさんなら!)」


マダム・トンミーは、彼女に対して、口を口で塞ぐ『窒息技』や、臀部と同時に『胸』に対してクロー攻撃を掛け、更に、リングを(実際にはベッドであったが)回転させる程、創意に満ちたビエール・トンミー氏に、次々と既成概念を打ち破ってきたアントニオ猪木を見ていた。


「(でも、私、相手が猪木さんでも、トンミーさんでも負けないわ!)」


と、彼女自身も『闘魂』を燃えさせようとした、その時であった。




(続く)



2020年12月22日火曜日

バスローブの男[その54]

 


「(ひえ~!)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』の体が飛んだ。『逆さクラゲ』の部屋に入ったところで、ビーエル・トンミー氏から、口で口を塞ぐ窒息技を掛けられ、更に、左手で右臀部に対して、右手で左『胸』に対してクロー攻撃を掛けられたままの状態であった。


「(うっ…)」


飛ばされ落下したマダム・トンミーの体が、跳ねた。ビーエル・トンミー氏に乗っかかられたまま、ベッドの上に倒れ込み、ベッドのスプリングで跳ねたのだ。


「(何?何、何?...ああ、ボディ・プレスね!いえ、テーズのフライング`ボディシザース・ドロップの変形かしら?)」


マダム・トンミーは、抑え込まれたまま、ルー・テーズの得意技を想起していたが…


「ふ、ふーっ!」


久しぶりに息を吹いた。ビーエル・トンミー氏が、口で口を塞ぐ『窒息技』を解いたのだ。しかし…


「え、ええー?」


仰向けになったままのマダム・トンミーが見上げている天井が回りじ始めたのだ。…と、


「(う、うっ…)」


再び、『窒息技』を掛けられたのだ。


「(何故?何故?どうして、天井が回っているの?...あ!リングが、円形リングが回っているのね!私が、回っているのね!)」


ビーエル・トンミー氏が、『窒息技』を一瞬解いたのは、ベッドの回転スイッチを押す為であったことに、マダム・トンミーは気付いていなかった。




(続く)




2020年12月21日月曜日

バスローブの男[その53]

 


「(ええ!ええ、ええー!)」


ビエール・トンミー氏の口で口を塞ぐ『窒息技』で声を出せない『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、脳天から声にならない叫び声を吹き上げた。『逆さクラゲ』の部屋に入ったところである。


「(ど、ど、どうして、そこを!?)」


右臀部をビエール・トンミー氏の左手でクロー攻撃されていたが、ビエール・トンミー氏の右手までもが、クロー攻撃を仕掛けてきたのだ。


「(ん、まあ!.....そこも、痛いっていうより…んぐっ!)」


マダム・トンミーの全身を稲妻のような『異変』が走った。


「(気持ちい…んぐっ!)」


ビエール・トンミー氏の右手が仕掛けてきたクロー攻撃の対象は、マダム・トンミーの左『胸』であった。


「(ああ…)」


マダム・トンミーの眼球が上瞼に移動し、白眼を剥きかけたその時であった。





(続く)



2020年12月20日日曜日

バスローブの男[その52]

 


「(ひゃっ!)」


塞がれた口の中で『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、叫び声を上げた。


「(こ…これは!?)」


『逆さクラゲ』の部屋に入ったところで、眼前の円形ベッドから、円形リングで行なわれたアントニオ猪木と柔道の金メダリスト『チョチョシビリ』との異種格闘技戦を想起していた時に、これから『一戦』を交えるはずであったビエール・トンミー氏の口で、自らの口を塞がれていたので、声を上げることはできず、塞がれた口の中でもぐもぐとした。


「(クロー!...でも)」


ビエール・トンミー氏の口で口を塞ぐ『窒息技』に続くまさかの攻撃に驚嘆を隠せない。


「(こんなところにクローなんて聞いたことないわ!)」


マダム・トンミーは、右臀部をビエール・トンミー氏の左手で鷲掴みにされたのだ。


「(トンミーさん、『鉄の爪』フリッツ・フォン・エリックの得意技まで習得なさってたのね)」


『鉄の爪』フリッツ・フォン・エリックは、云うまでもなく、アイアン・クローで有名であった伝説のレスラーだ。




「(でも…このクロー、痛いっていうより…)」


と思ったところであった。



(続く)




2020年12月19日土曜日

バスローブの男[その51]

 


「(ト、ト、ト……)」


『トントンとんまのてーんぐさん』と『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、唄おうとしたのではなかった。彼女は、その世代ではない。ピンクの照明も怪しい『逆さクラゲ』の部屋に入り、眼前の円形ベッドから、円形リングで行なわれたアントニオ猪木と柔道の金メダリスト『チョチョシビリ』との異種格闘技戦を思い出し、そう…


「(ト、ト、トンミーさん!)」


一緒に『逆さクラゲ』に入ったビエール・トンミー氏とのこれから始まるであろう『一戦』を柔道の裏投げで決めようと思っていた自らの口を塞いだのが、まさにこれから『戦う』相手のビエール・トンミー氏の口であることを、マダム・トンミーは知ったのだった。


「(え!いきなり!...私が、甘かった…)」


口を塞がれたままマダム・トンミーは、反省した。


「(一瞬たりとも隙を見せてはいけなかったんだわ。そうよ、プロレスって、ゴングが鳴ってから試合が始まるんじゃないもの。リングに上がった瞬間から、いえ、リングに上がる前から試合は始まっているんだった…うっ!)」


ビエール・トンミー氏の口は、更に強く押し付けられてきた。


「(これは…窒息技ね。く、る、しーい!反則だわ……でも、プロレスに反則はつきもの。まさか、トンミーさんが、こんな荒技の持ち主だったなんて!)」





マダム・トンミーは、もがいた。



(続く)



2020年12月18日金曜日

バスローブの男[その50]

 


「(いいわ、裏投げで決めるわ!)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、『逆さクラゲ』の部屋にある円形ベッドを見て、柔道家『チョチョシビリ』のあの投げ技で、これから一戦を交えるビエール・トンミー氏を打ち負かそうと考えた。円形リングで行なわれたアントニオ猪木と『チョチョシビリ』との異種格闘技戦で、『チョチョシビリ』が猪木を破った技である。


「(テーズ流のバックドロップでもいいわ)」


伝説のプロレスラーであるルー・テーズのバックドロップは、多くのプロレスラーが使う、相手レスラーを後ろに投げるようなものではなく、相手を持ち上げてその場で背中からマットに叩きつけるような、そう、柔道の裏投げに近いものであったのだ。


「ふふっ」


と、マダム・トンミーが、思わず口元を緩めたその時であった。


「うっ…」


半開きのその口が、いきなり何かに塞がれたのだ。


「(え!?何?何、何、何?)」


忙しなく瞬きしたマダム・トンミーは、顔面間近に人の眼を見た。瞳孔の真ん中でピンクの炎が燃えているような眼であった。





そして……



(続く)




2020年12月17日木曜日

バスローブの男[その49]

 


「ううーっ!」


獣の咆哮であった。ピンクの照明に満たされた『逆さクラゲ』の部屋に入った『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、その咆哮に驚くよりも、眼に飛び込んできたベッドに驚かされた。


「(え!?円形!)」


それは、円形ベッドであった。


「(え、これがリング!?)」


一気に酔いが覚めたような気がした。


「(ロープもないし、『チョチョシビリ』ね!)」


『チョチョシビリ』は、そう、1972年のミュンヘン・オリンピックの柔道の軽重量級の金メダリストである。ソ連の柔道家である。


「(円形リングを用意するなんて、トンミーさんも猪木さんばりの強者ね!)」


そうだ。アントニオ猪木は、1989年4月24日、東京ドームで『チョチョシビリ』と異種格闘技戦を行ったのだ。その時のリングが、ロープなしの円形リングであったのだ。





「(でも、猪木さんは、アナタよ、トンミーさん!私が『チョチョシビリ』よ!)」


アントニオ猪木は、その『チョチョシビリ』との異種格闘技戦で敗北を喫したのだ。異種格闘技戦での初の敗北であった。



(続く)




2020年12月16日水曜日

バスローブの男[その48]



「(これが….これが、『逆さクラゲ』!?)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、今、眼の前にある建物が、そこには、『逆さクラゲ』のマークがあった訳ではないものの、会社の同僚のトシ代に教えられた『逆さクラゲ』であることを本能的に悟った。


「(ここで、ベッドの上で『組んず解れつ』するのね!)」


酒に酔って足元のおぼつかない体の中に、闘争心が湧いてきた。


「(トンミーさん、ここで『お局様』と一線を交えたのね!)」


マダム・トンミーは、口を『へ』の字に食いしばった。


「入るよ、いいだろ?」


と、諒解を得る言葉を口にしながらも、ビエール・トンミー氏は、マダム・トンミーの肩を抱きかかえ、有無を云わせず、『逆さクラゲ』の自動ドアの中に連れ込んだ。





「(いいわ!負けないわよ!)」


と思うものの、興奮したせいか、マダム・トンミーは、更に酔いが回り、眼を閉じた。そして、次に眼を開けた時、


「(え?)」


眼の前にピンクが広がっていた。『逆さクラゲ』の中の部屋のようであった。


「うっ!」


思わず、えずいた。猛烈な獣臭であった。



(続く)




 

2020年12月15日火曜日

バスローブの男[その47]

 


「え!」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、思わず声を上げた。自分の肩を抱く男、狼のマスクを被ったプロレスラーの手を振りほどこうとした時のことであった。


「さ、行こう!」


狼のマスクを被ったプロレスラーは、より強くマダム・トンミーの肩を抱き、道路の脇の方に身を寄せていったのだ。渋谷の坂道を登った街、そこは円山町であった。


「うっ…」


マダム・トンミーは、眼に飛び込んできた光に、両眼を閉じた。


「大丈夫だから」


男は、マダム・トンミーの肩をより強く抱き寄せ、光の方に歩を進めた。


「(あ!ここは…)」


微かに開けたマダム・トンミー眼が、光の正体を見た。


「(『逆さクラゲ』!)」


そこには、ピンクとオレンジとブルーのネオンサインに包まれた建物があった。






(続く)



2020年12月14日月曜日

バスローブの男[その46]

 


「(んぐっ!んぐっ!んぐっ!)」


渋谷は円山町に登る坂道で、満月を見上げ、心の中で咆哮した狼男とも見える30歳台半ばくらいの男、彼の股間もグイっと、満月を見上げているようであった。


「(んん?臭い!)」


男と並んで歩き、男に肩を抱きかかえられるようにしていた20歳台半ばらしき女は、酒に酔い、半開きの虚ろな眼で、臭いのする方に、自分の肩を抱く男の方に顔を向けた。


「(...ああ、獣臭い!)」


獣の臭いとはどんなものか知らなかったが、本能的にその匂いを獣の臭いと捉えた。


「(え?!狼?)」


獣臭い男は、毛むくじゃらで、狼のように見えた。


「(いや、違う…人間のように立っている…狼男?まさか!?)」


自分が酔っているせいだと思った。


「(あ、そうなのね!マスクね。マスクを被ってるのね!)」


狼のマスクを被ったプロレスラーだと思った。




「(…ううっ、負けないわ!ウルフ・マスク!)」


と、マダム・トンミーは、自分の肩を抱く男、狼のマスクを被ったプロレスラーの手を振りほどこうとしたが……



(続く)