2020年12月14日月曜日

バスローブの男[その46]

 


「(んぐっ!んぐっ!んぐっ!)」


渋谷は円山町に登る坂道で、満月を見上げ、心の中で咆哮した狼男とも見える30歳台半ばくらいの男、彼の股間もグイっと、満月を見上げているようであった。


「(んん?臭い!)」


男と並んで歩き、男に肩を抱きかかえられるようにしていた20歳台半ばらしき女は、酒に酔い、半開きの虚ろな眼で、臭いのする方に、自分の肩を抱く男の方に顔を向けた。


「(...ああ、獣臭い!)」


獣の臭いとはどんなものか知らなかったが、本能的にその匂いを獣の臭いと捉えた。


「(え?!狼?)」


獣臭い男は、毛むくじゃらで、狼のように見えた。


「(いや、違う…人間のように立っている…狼男?まさか!?)」


自分が酔っているせいだと思った。


「(あ、そうなのね!マスクね。マスクを被ってるのね!)」


狼のマスクを被ったプロレスラーだと思った。




「(…ううっ、負けないわ!ウルフ・マスク!)」


と、マダム・トンミーは、自分の肩を抱く男、狼のマスクを被ったプロレスラーの手を振りほどこうとしたが……



(続く)




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