2020年12月18日金曜日

バスローブの男[その50]

 


「(いいわ、裏投げで決めるわ!)」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、『逆さクラゲ』の部屋にある円形ベッドを見て、柔道家『チョチョシビリ』のあの投げ技で、これから一戦を交えるビエール・トンミー氏を打ち負かそうと考えた。円形リングで行なわれたアントニオ猪木と『チョチョシビリ』との異種格闘技戦で、『チョチョシビリ』が猪木を破った技である。


「(テーズ流のバックドロップでもいいわ)」


伝説のプロレスラーであるルー・テーズのバックドロップは、多くのプロレスラーが使う、相手レスラーを後ろに投げるようなものではなく、相手を持ち上げてその場で背中からマットに叩きつけるような、そう、柔道の裏投げに近いものであったのだ。


「ふふっ」


と、マダム・トンミーが、思わず口元を緩めたその時であった。


「うっ…」


半開きのその口が、いきなり何かに塞がれたのだ。


「(え!?何?何、何、何?)」


忙しなく瞬きしたマダム・トンミーは、顔面間近に人の眼を見た。瞳孔の真ん中でピンクの炎が燃えているような眼であった。





そして……



(続く)




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