「(ト、ト、ト……)」
『トントンとんまのてーんぐさん』と『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、唄おうとしたのではなかった。彼女は、その世代ではない。ピンクの照明も怪しい『逆さクラゲ』の部屋に入り、眼前の円形ベッドから、円形リングで行なわれたアントニオ猪木と柔道の金メダリスト『チョチョシビリ』との異種格闘技戦を思い出し、そう…
「(ト、ト、トンミーさん!)」
一緒に『逆さクラゲ』に入ったビエール・トンミー氏とのこれから始まるであろう『一戦』を柔道の裏投げで決めようと思っていた自らの口を塞いだのが、まさにこれから『戦う』相手のビエール・トンミー氏の口であることを、マダム・トンミーは知ったのだった。
「(え!いきなり!...私が、甘かった…)」
口を塞がれたままマダム・トンミーは、反省した。
「(一瞬たりとも隙を見せてはいけなかったんだわ。そうよ、プロレスって、ゴングが鳴ってから試合が始まるんじゃないもの。リングに上がった瞬間から、いえ、リングに上がる前から試合は始まっているんだった…うっ!)」
ビエール・トンミー氏の口は、更に強く押し付けられてきた。
「(これは…窒息技ね。く、る、しーい!反則だわ……でも、プロレスに反則はつきもの。まさか、トンミーさんが、こんな荒技の持ち主だったなんて!)」
マダム・トンミーは、もがいた。
(続く)
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