「じゃあ、始めようかあ」
マーケティング部の部長が、立ち上がり、右手にビールの入ったコップを手に、宴席の部下たちに声を掛けた。渋谷の居酒屋であった。
「いよいよ、わがマーケティング部の新システムが稼働を始めた。開発してくれたのは、ここにいるシステム開発部のビエール・トンミー君だ」
マーケティング部の部長は、右手を伸ばし、隣に座るビエール・トンミー氏を紹介した。ビエール・トンミー氏も立ち上がり、頭を下げた。新システム稼働開始の打上げである。
「トンミー君は、見ての通りのハンサムだ。俺の若い頃に似ているなあ。はは!そう、あれ、なんだったけなあ、あ、そう、『原宿のアラン・ドロン』と呼ばれているそうだ」
と、社内のどこかで仕入れた情報を披露し、部下たちの受けを狙った時、誰か女性社員が、両手でメガホンを作って、叫んだ。
「『原宿のアラン・ドロン』じゃなくって、『原宿の凶器』ですよ!」
部長は、声のする方に、耳に手を当て、訊いた。
「え?『原宿のキョーキ』?どういう意味だ?」
と、課長が、部長に耳打ちした。
「おお、そういうことかあ!ますます俺の若い頃に似ているなあ、トンミー君!」
と、部長に肩を叩かれたビエール・トンミー氏は、美男子に似合わぬトボけた声を出してしまった。
「へ?」
(続く)
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