2020年12月5日土曜日

バスローブの男[その37]




「じゃあ、始めようかあ」


マーケティング部の部長が、立ち上がり、右手にビールの入ったコップを手に、宴席の部下たちに声を掛けた。渋谷の居酒屋であった。


「いよいよ、わがマーケティング部の新システムが稼働を始めた。開発してくれたのは、ここにいるシステム開発部のビエール・トンミー君だ」


マーケティング部の部長は、右手を伸ばし、隣に座るビエール・トンミー氏を紹介した。ビエール・トンミー氏も立ち上がり、頭を下げた。新システム稼働開始の打上げである。


「トンミー君は、見ての通りのハンサムだ。俺の若い頃に似ているなあ。はは!そう、あれ、なんだったけなあ、あ、そう、『原宿のアラン・ドロン』と呼ばれているそうだ」




と、社内のどこかで仕入れた情報を披露し、部下たちの受けを狙った時、誰か女性社員が、両手でメガホンを作って、叫んだ。


「『原宿のアラン・ドロン』じゃなくって、『原宿の凶器』ですよ!」


部長は、声のする方に、耳に手を当て、訊いた。


「え?『原宿のキョーキ』?どういう意味だ?」


と、課長が、部長に耳打ちした。


「おお、そういうことかあ!ますます俺の若い頃に似ているなあ、トンミー君!」


と、部長に肩を叩かれたビエール・トンミー氏は、美男子に似合わぬトボけた声を出してしまった。


「へ?」



(続く)




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