2020年12月3日木曜日

バスローブの男[その35]

 


「くさーい!」


マーケティング部の女性社員が、鼻をつまみながら声を上げた。


「そう、臭いわ。この部屋、なんだか、とっても臭い!」


別の女性社員が、同調した。


「おお、なんだ、これは?誰か、オナラでもしたのか?」


次長が、席から立ち上がり、鼻に手を当てながら、周りを見回した。


「いや、これ、オナラじゃないでしょ。臭いけど、なんかムラムラしませんか?」


中堅の男性社員の一人が、深呼吸をするように臭いを鼻に嗅ぎ込んだ。




「ああ、オレも目眩がしてきたぞ」


課長が、喜悦の表情を浮かべた。


「でも、もう堪えられません。誰か窓を開けて!」


と、叫ぶ女性社員に、若手男性社員が、指摘した。


「ウチのビル、窓開きませんよ」


近代的なビルであったので、オフィスの窓は嵌め込みで開けることはできなかったのだ。


「じゃあ、ドアを開けて、早くう!」


という部内の喧騒に、マーケティング部の壁際に置かれたパソコンの前にいた美形の2人の男女が、顔を見合わせ、笑みを交わした。



(続く)



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