2020年12月4日金曜日

バスローブの男[その36]

 


「(ね?)」


マーケティング部の部内に充満した臭いで騒然とする中、壁際に置かれたパソコンの前にいた美形の2人の男女の内の男の方が、女の方に無言で相槌を求めた。


「(ええ…ふふ)」


女も無言で相槌を打った。


「(秘密だね。ボクたちだけの秘密だね)」

「(ええ、誰も、私たちだと気付いてないみたいですわ)」


部内を騒がせた臭いの元が自分たちであることを認識し、そのことを2人だけの秘密とすることで、2人の間の距離を、物理的な距離だけではなく、心理的な距離を縮めたのは、そう、ビエール・トンミー氏と『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』とであった。


「(じゃあ、始めようか?)」

「(ええ、お願いしますわ)」


ビエール・トンミー氏は、マダム・トンミーに、彼自身が開発したマーケティングのシステムの操作説明を始めた。


「先ず、ログインです…んぐっ!


マダム・トンミーの隣に座ったビエール・トンミー氏の脚が、マダム・トンミーの脚に触れたのだ。


「こうですか?…んぐっ!


キーボードを叩くマダム・トンミーの肩が、隣に座ったビエール・トンミー氏の肩に触れ、『男』らしい逞しさが、腕を通し、ふくよかな胸に、そして更に、下半身へと伝わったのだ。




「うわー!もっと強烈な臭いがあ!」

「ドア、本当に開けたのかあ!?」

「これってテロかあ?!」

「ひっ、ひっ、避難しろお!退避だあ!」


マーケティング部の部屋から社員全員が、いや、喧騒を背に壁際に置かれたパソコンの前にいた美形の2人の男女を除いた全員が、部屋を出て行った。


「これが、メイン・メニューです…んぐっ!

「分かり易いですね…んぐっ!


壁際のパソコンの周囲は、靄がかったようになっていた。



(続く)




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