「(ね?)」
マーケティング部の部内に充満した臭いで騒然とする中、壁際に置かれたパソコンの前にいた美形の2人の男女の内の男の方が、女の方に無言で相槌を求めた。
「(ええ…ふふ)」
女も無言で相槌を打った。
「(秘密だね。ボクたちだけの秘密だね)」
「(ええ、誰も、私たちだと気付いてないみたいですわ)」
部内を騒がせた臭いの元が自分たちであることを認識し、そのことを2人だけの秘密とすることで、2人の間の距離を、物理的な距離だけではなく、心理的な距離を縮めたのは、そう、ビエール・トンミー氏と『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』とであった。
「(じゃあ、始めようか?)」
「(ええ、お願いしますわ)」
ビエール・トンミー氏は、マダム・トンミーに、彼自身が開発したマーケティングのシステムの操作説明を始めた。
「先ず、ログインです…んぐっ!」
マダム・トンミーの隣に座ったビエール・トンミー氏の脚が、マダム・トンミーの脚に触れたのだ。
「こうですか?…んぐっ!」
キーボードを叩くマダム・トンミーの肩が、隣に座ったビエール・トンミー氏の肩に触れ、『男』らしい逞しさが、腕を通し、ふくよかな胸に、そして更に、下半身へと伝わったのだ。
「うわー!もっと強烈な臭いがあ!」
「ドア、本当に開けたのかあ!?」
「これってテロかあ?!」
「ひっ、ひっ、避難しろお!退避だあ!」
マーケティング部の部屋から社員全員が、いや、喧騒を背に壁際に置かれたパソコンの前にいた美形の2人の男女を除いた全員が、部屋を出て行った。
「これが、メイン・メニューです…んぐっ!」
「分かり易いですね…んぐっ!」
壁際のパソコンの周囲は、靄がかったようになっていた。
(続く)
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