「(え!?)」
『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、下半身に何か固いものが当たるのを感じた。
「(何なの?)」
一瞬、動きを止め、下半身に神経を集中させた。『逆さクラゲ』の部屋の円形ベッドの上で、ビエール・トンミー氏とマダム・トンミーとは、口と口とを合せ、互いに自分の舌で相手の舌を巻きつけるように攻めあっていたが、マダム・トンミーの方の舌が、一瞬、止った。
「(おお!?...ええい!)」
ビエール・トンミー氏の舌も、相手の舌の動きが止ったことに驚き、一瞬、止ったが、相手の隙を見逃さず、止った相手の舌をキューっと吸うようにした。
「(ひゃっ!....ヒル!今度は、ヒルに変身なの?!)」
それまで『ナメクジ』と思っていたビエール・トンミー氏の舌が、マダム・トンミーには、『ヒル』になったように思えたのだ。
「(まるで、千の顔を持つ男『ミル・マスカラス』ね!それならこっちも!)」
マダム・トンミーの舌も相手の舌をキューっと吸うようにした。
「(私、吸血鬼よ。そう、ブラッシーよ!)」
マダム・トンミーは、自らを、自らの舌を、『吸血鬼』と称せられた極悪レスラー『フレッド・ブラッシー』に擬えた。『フレッド・ブラッシー』の現役時代を知っている訳ではなかったが、相手レスラーの血だらけになった額に噛みつき、その血を吸う『フレッド・ブラッシー』の画像は、何枚も見たことがあったのだ。
「(うっ……ヒー!)」
吸ったつもりの相手の舌に逆に、強くキューっと吸われ、ビエール・トンミー氏の舌は、声にはならなかったが、悲鳴を上げた。
(続く)
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