2020年12月13日日曜日

バスローブの男[その45]

 


「トンミー君、彼女、送って行ってくれよな!」


マーケティング部の新システム稼働開始の打上げがお開きとなった時、マーケティング部の部長が、ビエール・トンミー氏の肩をポンと叩き、同僚の女性社員と談笑するマダム・トンミーに視線を送り、そう云った。


「送り狼に……ふふ……」


と、笑みをこぼし、部長は言葉を続けた。


「……なっていいぞ!な、頼んだぞ、送り狼!」


しかし、部長は知らなかった。ビエール・トンミー氏の好男子然と着こなしたスーツの下は、もう毛むくじゃらになっていたことを。


「はい!」


と答えたビエール・トンミー氏の口の端から溢れた犬歯が、光った。『送る』前からもう『狼』になっていたのだ。





………それから30分余り後であった。渋谷の坂道を登る一組の男女がいた。


「(うーっ!)」


男は、空を見上げ、心の中で咆哮を上げた。その夜は、満月であった。



(続く)



0 件のコメント:

コメントを投稿