「トンミー君、彼女、送って行ってくれよな!」
マーケティング部の新システム稼働開始の打上げがお開きとなった時、マーケティング部の部長が、ビエール・トンミー氏の肩をポンと叩き、同僚の女性社員と談笑するマダム・トンミーに視線を送り、そう云った。
「送り狼に……ふふ……」
と、笑みをこぼし、部長は言葉を続けた。
「……なっていいぞ!な、頼んだぞ、送り狼!」
しかし、部長は知らなかった。ビエール・トンミー氏の好男子然と着こなしたスーツの下は、もう毛むくじゃらになっていたことを。
「はい!」
と答えたビエール・トンミー氏の口の端から溢れた犬歯が、光った。『送る』前からもう『狼』になっていたのだ。
………それから30分余り後であった。渋谷の坂道を登る一組の男女がいた。
「(うーっ!)」
男は、空を見上げ、心の中で咆哮を上げた。その夜は、満月であった。
(続く)
0 件のコメント:
コメントを投稿