2020年12月15日火曜日

バスローブの男[その47]

 


「え!」


『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』は、思わず声を上げた。自分の肩を抱く男、狼のマスクを被ったプロレスラーの手を振りほどこうとした時のことであった。


「さ、行こう!」


狼のマスクを被ったプロレスラーは、より強くマダム・トンミーの肩を抱き、道路の脇の方に身を寄せていったのだ。渋谷の坂道を登った街、そこは円山町であった。


「うっ…」


マダム・トンミーは、眼に飛び込んできた光に、両眼を閉じた。


「大丈夫だから」


男は、マダム・トンミーの肩をより強く抱き寄せ、光の方に歩を進めた。


「(あ!ここは…)」


微かに開けたマダム・トンミー眼が、光の正体を見た。


「(『逆さクラゲ』!)」


そこには、ピンクとオレンジとブルーのネオンサインに包まれた建物があった。






(続く)



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