2020年12月2日水曜日

バスローブの男[その34]

 


「(んぐっ!)」


マーケティング部の壁際に置かれたパソコンの前に座る『マダム・トンミーとなる前のマダム・トンミー』の横に立つビエール・トンミー氏は、またもや手に持つ資料で股間を隠した。


「(どうしてだ?)」


眼の前にいるマダム・トンミーが、裸でシャワーを浴びているように見えたのだ。しかし、自分が『立て板に水』かの如く浴びせたOEMの説明を、マダム・トンミーの方も、シャワーを浴びている感覚に囚われていることは知らなかった。2人は無意識の内に妄想の同期を取っていたのだ。


「(ああ、この臭い!)」


マダム・トンミーは、鼻腔を拡げた。ビエール・トンミー氏から、OEMの説明の他に、臭いのシャワーも浴びていたが、その臭いの強度が増したのだ。それは、ビエール・トンミー氏が、裸でシャワーを浴びるマダム・トンミーの姿を妄想したことで、股間から強烈な臭気を発したからであった。


「(おお、なんだ、これは、芳しいが…臭い!)」


ビエール・トンミー氏も、鼻腔を拡げた。彼が、裸でシャワーを浴びるマダム・トンミーの姿を妄想したことで股間から発した強烈な臭気を浴びたマダム・トンミーの方も、体の芯から湧き出たなにがしかの物質が彼女のファウンデーションと混ざったのか、魅惑的だが動物的とも云える匂い、いや、臭い、いやいや匂いであろうか…ああ、ああ、ああ、臭い、匂い、臭い、匂いを発し、ビエール・トンミー氏の鼻腔を下から満たしていったのだ。


「(臭い!...でも、嗅ぎたい、もっとお!)」

「(ああ、いい、いい、いいー!これは、麻薬か?これが、麻薬か?いや、媚薬というのか?)」


マダム・トンミーとビエール・トンミー氏、男女美形の2人が、本能むき出しで、互いの尻を追いあい、輪となって回るスカンクのようになっていた。




(続く)



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