「そう、人間鹿の『野獣』に『YOU』たちはゾッコンなのですよ。今、巷では六本木に『野獣会』復活か、という噂が流れていますが、その『野獣会』復活の正体は人間鹿のことだと思います」
そうか、そうだったのか………特派員の衝撃の報告を聞いたエヴァンジェリスト氏は、今や可愛いハリネズミのように縮こまってしまった自分のアソコを思い、項垂れたのであった。
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『レッスン』を終えた人間鹿は、ホテルの窓から夜の六本木を眺めていた。
「ふーっ」
口から吐いた紫煙の先に幾つものネオンが瞬いていた。
「You are beast!」
『レッスン』場としたベッドの上で、ブロンド『YOU』は叫んだのであった。シャワーを浴びた彼女は、先にホテルを後にしていた。
「…….my boyfriend……..」
ブロンド『YOU』が早口で云った英語は、殆ど聞き取れなかった。『my boyfriend』だけは聞こえたような気がしたので、『カレシが待ってるから….』とでも云っていたのであろう。
「エヴァさんっていい加減だなあ」
会社の先輩であるエヴァンジェリスト氏は教えてくれたのであった。
「英語力を身につけたかっらた、『ピロー・トーキング』が一番だぜ」
毎週木曜日の朝に、会社で外国人と電話会議をすることになったものの、英語力がなく苦しんでいる人間鹿に、エヴァンジェリスト氏はアドバイスをしてくれたのだ。
「イノキさんは、公式の場では通訳をつけて発言するようにしているが、英語の日常会話には苦労はされていないはずだ。最初の奥さんは、つまり、ミツコさんの前の奥さんはアメリカ人だったんだ」
イノキさんのことになると、エヴァンジェリスト氏の言葉には熱がこもる。
「イノキさんは、『ピロー・トーキング』で英語を覚えたんだ」
『タイチョー(隊長)、タイチョ-(体調)が悪いんですが』といった笑えないギャグを飛ばしまくっている先輩のアドバイスに従ってもなあ、とは思いつつも、藁にでもすがる思いであったのだ。
外国人との電話会議はそれ程に苦痛で、何とか英語力を身につけたかったのだ。
そこで、人間鹿こと、アオニヨシ氏は、毎夜、六本木に繰り出した。会社からあまり遠くないところで、外国人が多く集まる場所と云えば、六本木であろう、と思ったのだ。
ロアビル近くで、
「Why did you come to Japan?」
と『YOU』の声をかけ、ミッドタウン前の路地を入ってすぐ辺りの静かな場所では、
「Where are you from?」
とまた別の『YOU』に話し掛け、芋洗坂にいた『YOU』には
「I have a pen. I have an apple…..」
と流行り言葉も使ってみた。
そうすると、『YOU』たちは、面白いように英語の『個人教授』を引き受けてくれた。
勿論、大した英語は喋れないので、
「Private lesson, OK?」
しか云えなかったが、それでも『YOU』たちは人間鹿に付いて来たのである。
彼女たちは、人間鹿の英語なんかまともに聞いていなかった。ただ、人間鹿の放つ独特の臭い、『野生』の臭いの虜になったのだ。
彼女たちはまた、人間鹿の下半身を見て一様に、
「Oh, incredible!」
と叫んだ。
『レッスン』はホテルで受けた。ホテルのベッドの上だ。
しかし、ブロンド『YOU』も、赤毛の『YOU』も、ブラック『YOU』もただ、
「I’m comming!」
とか、
「You are beast!」
等、限られた英語しか『教えて』くれなかった。
『YOU』たちは、人間鹿に『レッスン』して満足気であったが(『YOU』たちの方は、逆に人間鹿から『レッスン』を受けたと思っていたかもしれない)、アオニヨシ氏は不満が募るばかりであった(下半身は満足していたようであったが)。
覚えたての英語を木曜朝の電話会議で使ってみた。
「I’m comming!」
と云ったところ、電話の相手の『YOU』は、
「What?」
と云い、電話会議の同席していた女性上司は、顔を赤らめた。
「You are beast!」
と云うと、やはり同席していた同僚に口を抑えられ、その日の会議中、オアニヨシ氏の口は塞がれたままであった。
「エヴァさんっていい加減だなあ。でも、それを信じたオレが馬鹿ってことか、まあ、『鹿』だけにな」
『ピロー・トーキング』を勧めたエヴァンジェリスト氏の言葉を真に受けた自分を責めた。
しかし、人間鹿はその夜も、『ピロー・トーキング』を求めて六本木の夜に繰り出し、ブロンド『YOU』から、『レッスン』を受けたのであった。
「You are beast!」
その夜のブロンド『YOU』もその言葉くらいしか教えてくれなかった。しかし、『レッスン』したことで自分だけは満足して帰って行ったのだ。
「エヴァさんっていい加減だなあ」
と思いつつも、人間鹿は明日の夜も六本木に現れるのだ。
…….こうして、六本木に『野獣会』復活、と云う噂が流れるようになったのであった。
そして、その噂を聞きつけ、『野獣会』入りを目指して夜の六本木に来る若者たちがいたのだ。
自分の『ケダモノ』を持て余している若者たちである。
(続く)
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