かつて六本木にあったとされる『野獣会』が、およそ60年の時を経て、復活されようとしている、という噂があった。
『野獣会』復活を目論んでいるのは、『原宿の凶器』と呼ばれたモノの持ち主であるビエール・トンミー氏ではないかと目された。
マダム・トンミーも、普段は、知的、理性的な夫が、実は『ケダモノ』でもあったことを思い出し、疑念を抱いた。
「この人、『野獣会』なのかしら?外で『ケダモノ』になってるのかしら?」
しかし、それは無用な心配であった。
妻の疑念も知らず惰眠を貪っていたビエール・トンミー氏の『原宿の凶器』は既に、今や『○○の小器』となってチンマリしていたのである。
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「キーッ」
六本木の夜、ロアビル辺りの上空に、金属音のようなものが響き渡った。
「六本木横丁」で焼肉を食べ終えたシゲ美とトシ江は、上空を見上げた。
週に二、三度は六本木に来ているが、初めて耳にする音であった。
上空を見上げる二人の横を一つの影が通り過ぎた。
「え?......何、今の?」
シゲ美とトシ江は、互いに相手に同じ質問を投げかけた。
野生の臭いであった。肉食系の二人には、直ぐに分る臭いであった。
「Hi!」
数メートル先に、白人女性に声を掛ける男がいた。
いや、それは「男」であっただろうか?
「違う…..」
トシ江が呟いた。
「違うわね」
シゲ美も呟き返した。
「Where are you from?」
と続けて白人女性の声を掛ける「男」は、人間ではなかったのだ。
他の人たちには人間に見えるかもしれなかったが、『野生』に敏感なシゲ美とトシ江には分るのであった。
….と、二人は、それぞれ肩を叩かれた。
「ね、君たち、一緒に、焼肉食いに行かない?」
ナンパだ。いつものことだ。向こうも男二人だ。
しかし、ダサい誘い方だ。しかも、二人ともブサメンであった。
こんな奴らには興味はない。
気になる。気になるのは『野生』の方であった。
シゲ美とトシ江は、肩に手を回している男二人を振り切り、『野生』の方を見た。
しかし、そこに「男」はもういなかった。
なんだったのだろう?
CAのシゲ美とOLのトシ江は、その時まだ、『野獣会』の復活の噂を知らなかった。
(続く)
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