「人間亀は、外国人に声を掛け、一緒にホテルに行き、そこで『レッスン』を受けようといているのです。英語を会得するには、『ピロー・トーキング』が一番だと思いでもしているのでしょう」
という特派員の報告を受け、エヴァンジェリスト氏が応えた。
「あ~。キミは相変らず何も分っていない」
エヴァンジェリスト氏は、クネクネと首を振った。「呆れたよ」という素ぶりであった。
「君は、アイツが英会話力を身に付けようと、『YOU』に声を掛けていると本気で思っているのか?」
六本木の特派員に問うた。
「そうではないのですか?それに、アイツって仰いましたが、人間亀とはお知合いですか?」
「ああ、多分、アイツであろう」
「アイツとは、誰なんですか?」
「云えぬ。ワシは、個人情報を守る男なのだ」
「貴方の口から、個人情報を守る、というセリフが出ようとは思いもしませんでした。貴方程、他人の個人情報を……」
「まず間違いなくアイツだ。アイツは、『野獣』に憧れていたのだ」
「へ?『野獣』?何なんですか、それは?」
「アイツは、『野獣会』に入りたいのさ。復活したと噂されている、あの『野獣会』に」
特派員のくせに、『野獣会』復活の噂も把握していない特派員に、エヴァンジェリスト氏は、丁寧に説明したやった。
=====================
昭和30年代、田辺靖雄を中心として、ムッシュかまやつ、井上順、中尾彬、峰岸徹、小川知子、大原麗子らをメンバーとした遊び人のグループがあった。それが、『野獣会』だ。
その伝説の『野獣会』が復活したという噂がある。
そして、その『野獣会』に入るには、『YOU』に『ケダモノ』に認定される必要があるとされているのだ。
若き人間亀は、エヴァンジェリスト氏に云った。
「亀だって、『野獣』になりたいと思っていると思うんです!」
会社の昼休み、若い後輩に唐突に訴えかけられ、エヴァンジェリスト氏は戸惑った。
「もし、亀が『野獣』ではなかったとしても、ガメラのようになれば、『野獣』として認められてもいいにではないでしょうか?亀だって、『野獣』になりたいと思っていると思うんです!」
若い後輩の熱に気圧されながらも、エヴァンジェリスト氏は、年の功で逆襲した。
「君は一体、何者だ?何を企んでいるのだ?君は亀なのか?『野獣』になりたいのか?」
しかし…..
「ノーコメントです。ノーコメント!事務所を通して下さい!」
そういうと、後輩は、いつもの昼休みのように、机の下に足を投げ出し、椅子に背中滑らせ、寝そべって、首を縮め、机の下に隠したのであった。そう、亀のように。
=====================
「そうなのだ。アイツなのであろう。アイツは、亀が『野獣』になることを欲していた。しかし、アイツが亀であるかどうかまでは分っていなかった。アイツは一見、普通の人間なのだ」
「しかし、お分かりになったのですね。私の報告で。人間亀が六本木に現れ、『YOU』に『Why did you come to Japan?』と声を掛けているとお聞きなって、それが、その『アイツ』であると」
「その通りだ。アイツは、英語の『レッスン』を受ける必要はない。今のところ、アイツは英語を使ったビジネスに関係はしていないのだ。アイツが、『YOU』に声を掛け、一緒にホテルに行こうしているとしたら、そこで『YOU』に『You are beast!』と云わせることができれば、『野獣会』入りが認められると思っているからであろう」
「その『アイツ』は、『野獣』になれたのでしょうか?」
「知らぬ。アイツが人間亀らしいことを今、知ったばかりではないか」
そうなのである。エヴァンジェリスト氏は、会社の若き後輩ヒルネンがどうやら人間亀であるらしく、『野獣会』入りを目指しているらしいと知ったばかりなのである。
人間亀ことヒルネンが、『ケダモノ』になることができ、『野獣会』入りの願望が叶ったのか、多分、まだ誰も知らない。
いや、そもそも六本木で『野獣会』が復活したというのは本当なのかどうかも定かではなかった。
確かなのは、『野獣会』復活の噂があり、それを聞きつけた若者たちが、『野獣会』入りを目指し、『ケダモノ』となるべく、六本木に集って来ているということであった(『YOU』にホテルのベッドの上で、『You are beast!』と云ってもらうのだ)。
松葉杖をついた骨折男(足だけでなく、アソコも骨折)や人間亀たちである。
そして、今夜もまた、『ケダモノ』になりたい新たな若者たちが六本木を彷徨っているのかもしれない。
(続く……..え?まだ続くの。『野獣会』ネタは、もう飽きたんだけど)
0 件のコメント:
コメントを投稿