「亀です!そう、紛うことなく、それは亀でした」
六本木の特派員からエヴァンジェリスト氏への報告だ。
「驚くじゃあ、あーりませんか。亀が夜の鳥居坂にいたんですよ」
かなり興奮している。
「亀がどこにいてもカメへんのですが、ただの亀ではないのです。写真をお送りします」
おお、これは!
「そう、人間亀です。噂にも聞いたことはなく、見るのは初めてです。突如、六本木に出現です。ミドリガメなら驚きませんが、もっと大きな亀なのです。それも人間亀なのです」
エヴァンジェリスト氏も驚いた。驚いたが、同時に、
「そうだったのか」
と合点のいくところもあった。
「アイツだ。アイツだな」
エヴァンジェリスト氏は思い出した。
「亀は『野獣』でしょうか?」
と問い、
「亀だって、『野獣』になりたいと思っていると思うんです!」
と悲痛な叫び声を上げた後輩のことを思い出した。
「亀は、『レッスン』を受けに六本木に来たのです」
熱意があるというよりも痛々しいというべき後輩の叫びを思い出しているエヴァンジェリスト氏に、特派員は報告を続けた。
「『YOU』系の『レッスン』です」
「『YOU』系の?」
「『YOU』ですよ。『YOU は何しに日本へ?』の『YOU』ですよ」
「外国人のことだということくらい分っている」
「人間亀は、六本木にいる外国人に『Why did you come to Japan?』と話しかけているのです。テレビ東京の番組の真似っこ遊びをしているのではありません」
「そんなことは分っている」
「え?人間亀のことをご存じなのですか?」
「人間鹿がいるのだから、人間亀がいても不思議ではない」
「とにかく人間亀は、外国人に声を掛け、一緒にホテルに行き、そこで『レッスン』を受けようといているのです。英語を会得するには、『ピロー・トーキング』が一番だと思いでもしているのでしょう」
「あ~。キミは相変らず何もわかっていない」
エヴァンジェリスト氏は、クネクネと首を振った。「呆れたよ」という素ぶりであった。
(続く)
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