「亀は『野獣』でしょうか?」
会社の昼休み、後輩のヒルネン氏に唐突に訊かれ、エヴァンジェリスト氏は戸惑った。
「もし、亀が『野獣』ではなかったとしても、ガメラのようになれば、『野獣』として認められてもいいにではないでしょうか?亀だって、『野獣』になりたいと思っていると思うんです!」
ヒルネン氏は、食い下がった。
しかし…….
「ヒルネン、君は一体、何者だ?何を企んでいるのだ?君は亀なのか?『野獣』になりたいのか?」
とエヴァンジェリスト氏が問い返すと、
「ノーコメントです。ノーコメント!事務所を通して下さい!」
そういうと、ヒルネン氏は、いつものように首を縮め、机の下に隠したのであった。
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「プシュー!」
六本木はロアビル近く、その昔、『アントンリブ』のあった鳥居坂辺りの上空に妙な音が響いた。
宝飾店で、数字の付いた指輪やネックレス、腕時計を見て、ため息をつくだけで購入することもなく出てきたシゲ子とトシ代は、上空を見上げた。
週に二、三度は六本木に来ているが、初めて耳にする音であった。
上空を見上げる二人の横を一つの影が通り過ぎた。
「え?......何、今の?」
シゲ子とトシ代は、互いに相手に同じ質問を投げかけた。
野生の臭いであった。ヘビやトカゲ好きの二人には、直ぐに分る臭いであった。
「Hi!」
数メートル先に、白人女性に声を掛ける男がいた。
いや、それは「男」であっただろうか?
「違う…..」
トシ代が呟いた。
「違うわね」
シゲ子も呟き返した。
「Where are you from?」
と続けて白人女性の声を掛ける「男」は、人間ではなかったのだ。
他の人たちには人間に見えるかもしれなかったが、『野生』に敏感なシゲ子とトシ代には分るのであった。
….と、二人は、それぞれ肩を叩かれた。
「ね、君たち、一緒に、スペアリブ食いに行かない?」
ナンパだ。いつものことだ。向こうも男二人だ。
しかし、ダサい誘い方だ。しかも、二人とも加齢臭のオジサンであった。
こんな奴らには興味はない。
気になる。気になるのは『野生』の方であった。
シゲ美とトシ江は、肩に手を回しているオジサン二人を振り切り、『野生』の方を見た。
しかし、そこに「男」はもういなかった。
なんだったのだろう?
CAのシゲ子とOLのトシ代は、その時まだ、『野獣会』の復活の噂を知らなかった。
仮に、『野獣会』の復活の噂を知っていたとしても、「男」と『野獣』とを結びつけて考えることはなかったであろう。
「男」からした臭いは、『野獣』のそれではなく、爬虫類のそれに似たものであったからだ。
(続く)
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