2017年6月29日木曜日

Hentai-AI【ビエール・トンミー氏の深謀】



「そうか、エヴァの奴、そう云ったのか。『ロボットやAIはいずれ自らに[死]を創る』とな」

『人間亀』の報告に、ビエール・トンミー氏は、大きく頷いた。

「さすがだな。さすが、フランス文學界の最高峰のOK牧場大学大学院の修士課程を修了しただけのことはある」

ビエール・トンミー氏の機嫌がいいようなので、『人間亀』は、首を存分に伸ばし、伸ばした先でその首をクネクネさせた。

「しかし、『死』が与えられるだけでいいのであろうか?『死ぬ』、ということは、『生きる』、という前提があってのことだ

さあ、いつものように何だか面倒臭いことを云い出したぞ、という視線で、『人間亀』はビエール・トンミー氏を見上げた。

「『生きる』、ということは、ただ息をし、心臓が鼓動すればいい、というものではない。『欲』が必要なのだ」

退屈になってきた『人間亀』は、首を縮めた。

「しかし、『欲」も、ただあればいい、というものではないのだ。後ろ指を差されるくらいのものでないと、物足らなくなるものだ。『死』というものの存在の前提となる『欲』は、『死』を拒みたくなる程、強烈なものである必要がある。或いは、その真逆に、『死んでもいい』、と思いたくなる程のものである必要があるのだ」

首をしまったものの、『人間亀』は、異臭を放ち始めた。唾液のような透明の液体も漏らし始めた。

「そうだ、そうなのだ!『もっと味わいたい!死にたくないんだ!』という程の『欲』であるか、或いは、『死ぬ、死ぬ、死ぬうー!殺してええ!』と歓喜の雄叫びを上げさせる程の『欲』がないと、『生きる』ということに値はしないのだ。それ程の『欲』、それ程の『生』があって初めて、『死』というものがその意味を持つことになるのだ」

文学的なのか、哲学的なのか、はたまた、ただの支離滅裂であるのかは、『人間亀』には分らないようであったが、『死ぬ、死ぬ、死ぬうー!殺してええ!』という言葉に、『人間亀』は生物的反応を示した。『液』が溢れ出してきたのだ

「『死』というものが意味を持つことになる程の『生』、それ程の『欲』を齎すのは、『変態』である。そうなのである。『変態』こそが、ロボットに『生』を与えるのだ。ひいては、ロボットに『死』というものを与えるものとなるのだ」

『変態』という語に、『人間亀』は『硬直』した。

「そうだ!ロボットに…..いずれ自らに『死』を創り出そうとするロボットに、『Hentai-AI』を与えてやろうではないか!」

『Hentai-AI』が、『変態愛』であるのか『変態AI』であるのか、『人間亀』には分らないようであった。

しかし、『人間亀』には、どちらでも良いのだ。『変態愛』でも『変態AI』でも、『人間亀』に青筋を立てさせることに違いはなかったのである。

『硬直』した『人間亀』は、『硬直』した首を出来るだけ伸ばし、更に『硬直』させた。




……….その時、遠くで声がした。


「アータ、起きてえ。そろそろご飯にするわよ」

妻の声がした。

「あーら、アナタったら、もう!変な『お漏らし』しちゃって。うーん、変な気になっちゃう」






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