2017年6月8日木曜日

【野獣会、再び?】六本木に『ケダモノ』、現る!(その4)



かつて六本木にあったとされる『野獣会』が、およそ60年の時を経て、復活されようとしている、という噂があった。

その噂を耳にしたマダム・トンミーは、普段は、知的、理性的な夫が、実は『ケダモノ』でもあったことを思い出し、疑念を抱いた。

「この人、『野獣会』なのかしら?外で『ケダモノ』になってるのかしら?」

と、妻が無用な心配をしていることも知らず、ビエール・トンミー氏は、惰眠を貪っていたのであった。




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美人講師は、自らの眼を疑った。

眼の前に、『ケダモノ』がいたのだ。

オープンカレッジの教室に何故、『ケダモノ』がいるのだ。

信じ難くて、眼を瞬かせた。

すると、『ケダモノ』は消え、いつものエロ爺がそこにはいた。教室最前列、中央の席に。

舐めるような視線でこちらを見ている。気持ち悪いが、もっと舐めろ、と云う、もう一人の自分の声が聞こえる。

キンコンカンコーン!

そんなことに囚われている場合ではない。講義だ。講義をしなくては。

今日のテーマは、『フォヴイスム』だ。『野獣派』だ。

「『フォヴイスム』が、『野獣派』とされるのは、批評家ルイ・ヴォークセルが…..」

そうか、『野獣派』という言葉から、『ケダモノ』の幻想を見たのだろう。

『野獣派』は、決して『ケダモノ』を描くというものではないが、自分の中にもある、抑え切れない『野生』が、『野獣』という言葉から『ケダモノ』を連想させたのかもしれない

そして、気持ち悪いと思いながらも、自分と同じ『野生』の臭いの持ち主であるエロ爺の姿を『ケダモノ』と見間違えてしまったであろうか。

「先生、質問です。どうかされたのですか?」

しまった!沈黙していたようだ。爺さんに質問というか、声を掛けられてしまった。

マズイ。また、自分の世界に入りかけていた。

「アンリ・マティスは......」

講義を続けた。

しかし、爺さんの臭いがもろに浴びせかかって来る。

「『フォヴイスム』の画家たちを指導したギュスターヴ・モローは、….」

頑張って講義を続けた。

エロ爺の臭いは、『野生』のものだけでなく、老人臭混じりなので、尚更、臭く、饐えたものだ。

そんなもの嗅ぎたくはない。嗅ぎたくはないが、その臭いを自宅に持ち帰ってしまうのだ。

その日も、エロ爺の臭いは、美人講師の意思とは関係なく、彼女の自宅マンションまで付いてきた。

『野獣派』の講義をどう終えたか、記憶にない。

講義の間、幾度も、爺さんが『ケダモノ』に見えた。爺さんの『野生』の臭いが浴びせかかって来た。

疲れた。いつも以上に疲れた。

帰宅し、着ていた服を脱ぎ、クローゼットにかけようとすると、爺さんの臭いが鼻をつく。服に染み付いてしまっているのだ。

「チクショー」

と思いながらも、ハンガーに掛けた服に鼻を近づけてしまう。



爺さんは、言葉は悪いが、本当に『チクショー』だ。そうだ、『野獣』だ。『ケダモノ』だ。

「…若い方たちはご存じないかもしれませんが、かつて六本木にあったとされる『野獣会』が、復活されようとしている、という噂が……」

???…..ニュースだ。帰宅して直ぐつけたテレビから聞こえて来たのであった。

『野獣会』なんて聞いたことはない。しかし、気になった。『野獣会』が何であるのか知らないが、気になった。

『ケダモノ』に化した爺さんの姿が眼前に浮かんで来た。

「あの爺さん、『野獣会』かしら….六本木の夜で『ケダモノ』になるのかしら」


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「あの爺さん、『野獣会』かしら….六本木の夜で『ケダモノ』になるのかしら」

と自宅で呟く美人講師を見た。

美人講師の自宅がどこにあるのか知らない。勿論、行ったこともない。

しかし、美人講師が、自分のことが気になって仕方がない様子を見ている。

「夢だ」

ビエール・トンミー氏は、それが夢であることを自覚していた。目覚めてはいなかったが、眠りの中で、それが夢であることを理解していた。

美人講師が自分に囚われていることに、それが夢と分っていても、ビエール・トンミー氏は、『興奮』した。

目覚めてはいないのに、自分の体に『異変』が生じていることが分っていた。

しかし、その『異変』を妻が見ており、頬を薄桃色に染めて、こうつぶやいたことは知らなかった。

「この人、やっぱり『野獣会』なのかしら?外で『ケダモノ』になってるのかしら?」



(続く)








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