「アナタは、エヴァンジェリスト氏に感謝すべきなのです」
ビエール・トンミー氏は、自覚はなかったが、寝汗をかいていた。
「エヴァンジェリスト氏という存在がなかったら、アナタは犯罪者になっていたかもしれないのですぞ」
何故、『亀』ごときにそんなことを云われないとならないのだ。
「アナタは、サイコパスなのですよ。ヘンタイック・サイコパスなのです」
『亀』が、ワシの何を知っているというのだ。
「高校1年の時、エヴァンジェリスト氏に出会わなかったら、今頃、アナタは刑務所の中にいたかもしれないのですぞ」
高校1年の時、エヴァと同級生になったのは事実だが、その出会いがなかたら、ワシが犯罪者になっていたとは、無礼極まりない!
「アナタの頭を動的MRIで検査すれば分るのですよ、アナタが、ヘンタイック・サイコパスであることは」
ワシが変態であることは認める。しかし、ワシがサイコパスだなんて…
「しかし、エヴァンジェリスト氏を友としたことで、アナタは救われたのです。スケベなエヴァンジェリスト氏に救われたのです」
エヴァは確かにスケベだが、そのスケベにワシが救われたとは意味が分らん。
「動的MRIで脳をスキャンすると、アナタがヘンタイック・サイコパスであることが証明されるはずです。しかし、アナタは犯罪者になってはいない。少なくとも今は」
当り前だ。犯罪者的心理はなくはない気もするが、犯罪者ではない(ウッ。そうか……犯罪者的心理はなくはないのだ、ワシは)。
「サイコパス的脳の持ち主が総て犯罪者になるとは限りません。環境と学習とにより、犯罪者になることを防ぐことは可能なようなのです」
環境と学習?意味が分らん。
「エヴァンジェリスト氏です。アナタは、友人が、つまりエヴァンジェリスト氏がスケベであったことで、自身を抑制できたのです」
『亀』よ、理解不能な話をするのは止めてくれないか。折角、深夜の蠢きに備えて惰眠を貪っているのだから。
「友人のスケベぶりを見て、アナタは『ああなってはいけない』と思うようになったのです」
そうだ、エヴァの奴は、高校1年の頃から、女の子にしか興味がなかった。小説もドラマも石坂洋次郎ものが好きであった。
今からしたら、なんてことはない内容だが、当時は、石坂洋次郎の小説・ドラマ・映画はかなりエロチックなものであった。
エヴァの奴は、中学生の頃から石坂洋次郎ものにハマっていたのだ。
「そうです。そうなんです。エヴァンジェリスト氏は極め付けのスケベ高校生だったのです。アナタは。厳密には変態であり、ただのスケベではありませんが、大きく捉えると、アナタとエヴァンジェリスト氏は同類だったのです」
だから、ウマが合い、今でも友であるのか!
「そうなのです。アナタは、友であるエヴァンジェリスト氏の醜いスケベ姿を見て、『『ああなってはいけない』と思うようになり、ヘンタイック・サイコパスではあるものの、犯罪者にならずに済んだのです」
そういうことであったのか。
「だから、アナタは、エヴァンジェリスト氏に感謝すべきなのです」
しかし、どうして、それを『亀』がわざわざワシに云いに来たのだ?しかも、何だか普通ではない『亀』ではないか。頭は、まるで人間ではないか。何だ、この『亀』は。
……….その時、遠くで声がした。
「アータ、起きてえ。そろそろご飯にするわよ」
妻の声がした。
「あーら、アナタったら、もう!パンツから『亀』出さないで。うーん、変な気になっちゃう」
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