2018年11月29日木曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その40]







「ああ…」

と返事し、妻に促され、席に着きながらも、ビエール・トンミー氏は、

「ふん!スケベ!」

という『ユキ』と呼ばれた少女の言葉が耳から離れなかった。いや、耳に入ってきたのではなく、脳に直接入ってきた言葉であったが。

「ふう…..」

席に着くと思わず、ため息が漏れた。

『ユキ』と呼ばれた少女、『松坂慶子』に酷似した女性、『内田有紀』に酷似した女性との『会話』に疲れていた。

「アータ、大丈夫?」

マダム・トンミーは、夫の様子が心配であった。

「ああ、大丈夫だよ。お腹空いてね」
「もう直ぐ、ホイコーローを食べられるわ

そうだ、今回の味の素の工場見学で選んだ『「Cook Do®️」コース』では、『味の素うま味体験館』で『回鍋肉』の調理体験があるのだ。調理の後は勿論、作った『回鍋肉』を実食する。

「あーら、ご一緒なのね」

ビエール・トンミー氏は、声の方に顔を向けた。

「(まさか!)」

そう、まさかな展開であった。

「あら、奥様!お嬢さんも!」

『内田有紀』に酷似した女性とその娘『ユキ』と呼ばれた少女が、同じテーブルに着いたのだ。



「(『有紀』さん…..)」

調理体験は、班ごとにするようで、席(テーブル)も予め決められていた。4-5人で一つの班である。

「(ん!)」

テーブルの下、そして更に、エプロンの下だから、誰にも気付かれないであろうが、ある部分が『反応』していた。

「ふん!スケベ!」
「(え!)」

一瞬だが、『ユキ』と呼ばれた少女が席に着きながら、ビエール・トンミー氏に『声』付きの視線を送ってきたのであった。


(続く)



2018年11月28日水曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その39]







「(いや、オジサンは、…んん、ボクは、子どもに興味はない)」

『ユキ』と呼ばれた少女は、自分に顔を向けている訳でもないのに、そして、他の誰も自分に顔を向けている訳でもないのに、ビエール・トンミー氏は、必死の弁明を試みた。

「(ああ、さっきは向こうを見てたものね)」

『ユキ』と呼ばれた少女は、母親と向き合って何かを云っているようであるのに、何故、彼女の別の声が聞こえるのかは分らなかった。

「(え!?君も見ていたのか?)」
「網タイツが好きなの?」
「(ええーっ!聞こえていたのか!)」
「好きなのね?」
「(いや、まあ…..嫌いでは……)」
「ママも持ってるよ、網タイツ」
「(ウオーッ!......あ!)」
「ふん!スケベ!」

ビエール・トンミー氏は、慌てて、「Cook Do®️」の赤いエプロンの下部を抑えた。



「アータ!」
「は!」
「どうしたの?」

妻であった。マダム・トンミーが、夫の肩を叩いたのだ。

「始まるわ。席に着きましょ」


(続く)


2018年11月27日火曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その38]







「そう、熟女がお好きなのね」

その視線は、そう云っていた。少なくともビエール・トンミー氏には、そう聞こえた。

視線が口をきく、というのも妙であるが、ビエール・トンミー氏の聴覚はそう捉えたのだから仕方がない。

「(ん?…誰だ?)」
「まあ、私だって、今月[2018年11月]で43歳になった熟女だけど….」



「(え?今月で43歳?...まさか….)」
「でも、60台の方がいいのね…..」
「(いや、ボクは若い方が…….)」
「え?そうなの?....じゃ、噂通り、ロリコン?」
「(ま、ま、まさかあ!)」
「やっぱり、『ユキ』に眼をつけてたの?」
「(いえ、違います!.....は?....『ユキ』?.....って、ことは….)」

ビエール・トンミー氏は、反対側の反対側の横を向いた。つまり、『ユキ』と呼ばれた少女がいた方の側を向いたのだ。

「(『有紀』さん…..)」

そこにいたのは、『内田有紀』、いや『内田有紀』に酷似した女性であったが、こちらを向いてはいなかった。

「ママあ、可愛いい?」
「うん、可愛いいよ。『ユキ』は、赤が似合うわねえ」

『内田有紀』に酷似した女性が、娘に「Cook Do®️」の赤いエプロンと、赤い『AjiPanda®️』のバンダナをつけてやっていた。

「でもね、パパが、『ユキ』は可愛いいから、男には気をつけろ、ですって。特に、オジサンには、って」

と云うと、一瞬、ほんの一瞬だが、こちらを見た。見たような気がした。

「(んぐっ!)」
「ふん、ロリコン!」

もう視線は剥けてきていないはずなのに、ビエール・トンミー氏の聴覚は『ユキ』と呼ばれた少女の声を捉えたのだから仕方がない。


(続く)




2018年11月26日月曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その37]







「今度は、アタクシ!?」

『松坂慶子』、いや『松坂慶子』に酷似した女性の視線は、そう云っていた。少なくともビエール・トンミー氏には、そう聞こえた。

視線が口をきく、というのも妙であるが、ビエール・トンミー氏の聴覚はそう捉えたのだから仕方がない。

「(ええーっ!いやいやいやあああ….それはあ….)」
「ホント、変態ねえ。ま、分らなくはないけど。昔は、殿方はアタクシの網タイツにメロメロになったものだものお」


「(んぐっ!)」

ビエール・トンミー氏は、思わず、唾を飲み込んだ。

「(しまった!想像してしまった!)」
「んまあ!」
「(ち、ち、違うー!)」
「アタクシ、見たのよ!貴方の喉ちん…..まあ!何を云わせるの!」
「(いやいや、唾を飲み込んだのは….そう、この後のホイコーローが….)」
「まあ、みっともない!源氏の男は言い訳なんてしないわ!」
「(え?ゲンジ?....ボクは….)」
「いいの、仕方ないわねえ。殿方って、抑えようと思っても反応しちゃうのよねえ」

それまでは、『武家の女よ』とキリッとした表情しか見せなかった『松坂慶子』に酷似した女性の顔は、柔和というか、むしろこちらに媚びるようなものとなっていた。

「(綺麗だ…..)」

と思ったものの、ビエール・トンミー氏は、頭を振った。

その時、…….

「(…..?)」

ビエール・トンミー氏はまたまたまた、何かに射抜かれているのを感じた。


(続く)


2018年11月25日日曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その36]







「まあああ!ロリコン!....貴方って、ロリコンだったのねええ!」

その視線は、そう云っていた。少なくともビエール・トンミー氏には、そう聞こえた。

視線が口をきく、というのも妙であるが、ビエール・トンミー氏の聴覚はそう捉えたのだから仕方がない。

「(ん?…誰だ?...今度は誰だ?)」
「まあ、貴方のはCock Do?』だったのねええ。貴方っていう男は!」
「(え?ええ?……)」
「しかも、中学生の女の子で、なんて!この変態!ロリコン!」
「(いや、確かにボクは変態だが、ロリコンでは….)」
「惚けるのもいい加減になさい!実際、膨らんでるじゃないの!ホント、『Cockは口ほどにモノを云い』だわ」
「(いや、この膨らみは…..)」
「母親の方に色目を使っているのかと思ってたら、まさか中学生に、だなんて!」
「(いや、だから、この膨らみは、『ユキ』ちゃんではなく、それから『有紀』さんでもなく、さっき妻が….)」
「言い訳するなんて、最低だわ!こちらから見てたのよ、貴方が『ユキ』ちゃんの方に物欲しそうに視線を向けるのを!」
「(え?こちらから?)」

ビエール・トンミー氏は、反対側の横を向いた。その瞬間、

「ふん!」

とこちらを睨み返す恰幅のいい女性がいた。

「(『松坂慶子』…….)」

いや、『松坂慶子』に酷似したアノ女性であった。そして、その女性の視線は、やや下に落ちた。

「(ハッ!)」

ビエール・トンミー氏は、慌ててエプロンの膨らみを両手で隠した。



「ロリコン男めえ」
「(いや、ボクは若い娘が好きだが、中学生には興味はない……)」
「若けりゃいいってものじゃないでしょ)」
「(え?.....ええ?)」

ビエール・トンミー氏は、思わず、『松坂慶子』を、いや『松坂慶子』に酷似した女性を見返した。

「ま!....」


(続く)


2018年11月24日土曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その35]







「(ふん、スケベ!)」

その視線は、そう云っていた。少なくともビエール・トンミー氏には、そう聞こえた。

視線が口をきく、というのも妙であるが、ビエール・トンミー氏の聴覚はそう捉えたのだから仕方がない。

「(ん?…誰だ?)」
「何が、『Cook Do®️』よ。『Cock Do?』でしょ、アンタは!」
「(え?ええ?……)」



「『Cook Do®️エプロンで隠したって分るわ。『Cockは口ほどにモノを云い』ってね」
「(『Cock』?)」
「ママを見て妄想したのね?」
「(ママ?)」
「真横からだと、歴然よ!膨らんでるじゃないの!」
「(真横?)」

ビエール・トンミー氏は横を向いた。その瞬間、

「ふん!」

とそっぽを向いた少女がいた。

「(『ユキ』….ちゃん….)」

『ユキ』と呼ばれた少女である。『内田有紀』に酷似した女性の娘である。ボーイッシュであった10代の『内田有紀』にそっくりな美少女であった。

「(ハッ!)」

その時になって初めて、ビエール・トンミー氏は、自身がつけたエプロンを見た。

「(ハッ!ハッ!)」

エプロンの下部のある部分が膨らんでいた。『ユキ』と呼ばれた少女は、そのことを指摘していたのだ。その膨らみは、上から見るよりも真横から見た方がよりハッキリしているであろう。

「(いや、違う!違うんだ、『ユキ』ちゃん!)」

ビエール・トンミー氏は、すでにそっぽを向いた少女に必死に語りかけた。勿論、心の中で、である。

「(違うんだよ、『ユキ』ちゃん!この膨らみは、『有紀』さん、いや、君のママを見たからではなく、ああ、いや、少なくとも今のこの膨らみは、君のママを見たからではなくって….)」

その時、…….

「(…..?)」

ビエール・トンミー氏はまたまた、何かに射抜かれているのを感じた。


(続く)



2018年11月23日金曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その34]







「アータ、降りるわよ」

妻に促された。『アジパンダバス』は再び、『味の素うま味体験館』に戻っていたのだ。

「(もう、『松坂慶子』にはうんざりだ。『立花萬平』が悪い訳ではない)」

『味の素うま味体験館』の2階に上がりながらも、ビエール・トンミー氏は、『松坂慶子』に囚われていた。いや、NHKの朝ドラ『まんぷく』のヒロイン(チキンラーメン、カップヌードルの生みの親である『安藤百福』のモデルである『立花萬平』の妻だ)の母親役である『松坂慶子』に囚われていた。

「(あああ!....な、な、なんなんだ。『松坂慶子』のことなんかどうでもいいのに)」

『味の素うま味体験館』の2階には、キッチン・スペースがある。そこで、調理体験をするのだ。

「アータ、はい、これ」

妻に2つの赤いものを渡された。

「ああ…..」

赤い生地に白抜き文字で「Cook Do®️」と書かれたエプロンと、『AjiPanda®️』のイラストが描かれたバンダナである。



「アータ、向こうを向いて」

妻が、背後からエプロンとバンダナをつけてくれるのだ。

「(んん?.......オ、オー!)」

エプロンとバンダナが赤いので周囲の人たちは気付かなかったかもしれないが、ビエール・トンミー氏の頬は紅に染まった。

「(ああ、ボクは、やはり……)」

そして、エプロンの下にあるので、多分だが、これも周囲の人たちは気付かなかったかもしれないが、ビエール・トンミー氏の股間には、異変が生じていた。

「(そうだ。妻が一番だ…..)」

背後からエプロンとバンダナをつけてくれる妻の胸が、ビエール・トンミー氏の背中に当たっていたのだ。

しかし…….

「(…..?)」

ビエール・トンミー氏はまた、何かに射抜かれているのを感じた。


(続く)



2018年11月22日木曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その33]







「Cook Do®️」工場では、映像での説明を受けた後に、「Cook Do®️」の素(調味料というのか?)を機械が袋詰めし、加熱、冷却、箱入れ等が行われる製造ラインをガラス越しに見たことは確かであった。

見たことは確かであったが、ビエール・トンミー氏は、その記憶があることを記憶していただけであった。つまり、その記憶は遥か遠くなのである。

ビエール・トンミー氏の肉体は、「Cook Do®️」の製造過程を見学したことは間違いない。しかし、ビエール・トンミー氏の意識は、別のところにあったのだ。

工場内を案内されている間も、常にアノ視線を感じていたのだ。自分を非難するアノ視線だ。『ユキ』と呼ばれた少女や『松坂慶子』の(『松坂慶子』に酷似いた女性の)視線だ。

「(違う!.....違うんだ!)」

ビエール・トンミー氏は、心の中で否定した。

「(ボクは、妻を愛している)」

自分の手を握ってきている妻の手を握り返した。

「ん、もう…..」

妻が、耳元で小さく呟いた。

だが、ビエール・トンミー氏の眼は、

「(『有紀』さん…..)」

……を追っていた。

ビエール・トンミー氏の心と、手と、眼とはバラバラになっていたのだ。

そして、いつの間にか、ビエール・トンミー氏は再び、妻と共に、『アジパンダバス』の席についていた。

「源氏の男は、妻以外の女性に心を寄せることはありませぬぞ!」

背中に受ける『松坂慶子』の(『松坂慶子』に酷似いた女性の)視線は、そう云っていた。

「(ゲンジ?)」
「そう、アタシの祖先は、義経よ!」



「(ええ!?...そ、そ、そんな…..)」
「んまあ!嘘だ仰るの!」
「(!!!……..いや…….いや、な、な、なんだ、これは!)」

ビエール・トンミー氏は頭を振った。

「(んん?これは変だ。まるでNHKの朝ドラ『まんぷく』の会話ではないか)」
「どうしたの、アータ?」
「ん?...いや、ちょっと眠気がね」
「アータ、毎晩、遅くまで勉強してるからよ」

妻は、夫が博識だから、仕事の現役を引退した後も毎夜、明け方までMac上のWindowsに向かっているのは、勉強を続けているのだと信じ込んでいる。

「(『まんぷく』でも『松坂慶子』にはうんざりしているのだ。なのに、現実界にまで…….)」

その時、『アジパンダバス』は優しくブレーキをかけた。


(続く)




2018年11月21日水曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その32]







「(一体、どうなっているのだ?)」

疑問が頭の中を渦巻いていたが、ビエール・トンミー氏は、妻に促され、『アジパンダバス』の前方席についた。

『内田有紀』親娘、『松坂慶子』よりも前の席である。

「(見られている!)」

後頭部に二つの視線を感じていた。

「(あれは….『京急川崎駅』前の横断歩道で、『松坂慶子』を見かけた、というか、『松坂慶子』に睨まれた、と思ったのは気のせいではなかったのだ)」

勿論、『松坂慶子』本人ではないだろうから、『松坂慶子』の酷似した女性ではあろうが。

「(何故、今日は、『内田有紀』に会い、『松坂慶子』に会うのだ?)」

『アジパンダバス』が、『「Cook Do®️」工場まえ』というバス停に着き、下車しながらも疑問が湧いてきた。



「(ボクと妻は、『味の素』の工場に来たんだぞ)」

そうであった。トンミー夫妻は、『味の素』の工場見学に来たのであった。

「(『日清食品』の工場見学に来た訳でもないのに)」

そこが、『日清食品』の工場であれば、分らないでもなかった。

『内田有紀』と『松坂慶子』は今(2018年秋)、NHKの朝ドラ『まんぷく』に出演していたからだ。『まんぷく』は、『日清食品』の創業者夫婦の物語である。

「(いや、『味の素』の工場であろうと、『日清食品』の工場であろうと、『ユキ』と呼ばれた少女や『松坂慶子』に何故、睨まれなければいけないのだ?)」

と思いながらも、ビエール・トンミー氏は知っていたのだ。いや、ビエール・トンミー氏の股間は、知っていた。

『内田有紀』を見ないようしても、すぐ側にいることが分っているだけで、己に異変が生じていることを、そして、それを『ユキ』と呼ばれた少女も『松坂慶子』も気付いているであろうことを。


(続く)


2018年11月20日火曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その31]







マダム・トンミーに支えられるようにして、ビエール・トンミー氏は、『アジパンダバス』に乗り込んだ。

ビエール・トンミー氏は、分っていた。

『アジパンダバス』の乗車席の窓から光った思えたのは、『ユキ』と呼ばれた少女の射抜くような視線であることを。

だから、乗り込んだ『アジパンダバス』の中では、『ユキ』と呼ばれた少女が座っているであろう進行方向に向って左側の席は見ないようにした。

「(見たい…..見たいけど….)」

そう、『ユキ』と呼ばれた少女の横には、母親である『内田有紀』、いや、『内田有紀』に酷似した女性が座っているはずであった。だから、

「(見たい…..見たいけど….)」

自分の気持ちを殺して、進行方向に向って右側に空席を探した。

しかし、その時、再び、ビエール・トンミー氏は、立ち眩みがし、思わず、腰を落としそうになった。

『ユキ』と呼ばれた少女の視線とは別の種類の強力な視線を浴びたのだ。

「(え?....なんで?)」

一歩、後ずさりしただけで、なんとか腰を落とすことを防いだビエール・トンミー氏は、自分が見たものに疑問を抱かざるを得なかった。

進行方向に向って右側には、少々恰幅のいい初老の女性がこちらを睨んでいたのだ。

老いてはいたが、昔は相当な美人であったことを思わせる容姿のその女性は、

「私は、武家の女よ!」

とでも云うような視線をビエール・トンミー氏に向けていたのだ。



「(『松坂慶子』…!)」

そう、少々恰幅のいい初老の女性は、『松坂慶子』、いや、『松坂慶子』に酷似した女性であった。


(続く)



2018年11月19日月曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その30]







味の素の工場見学には、『味の素うま味体験館』前からバスに乗る。

『アジパンダバス』だ。

『味の素うま味体験館』の玄関を出る時、ビエール・トンミー氏は、まだ茫然としていた。

『シアター』では、うまみと共にあった日本人の食の歩みを見たはずであったが、ビエール・トンミー氏の脳内では、10代、20代、30代、そして、40代の『内田有紀』の映像が流れていたのだ。

それは、『内田有紀』の、いや、『内田有紀』に酷似した女性の娘で『ユキ』と呼ばれた少女が、ビエール・トンミー氏の股間に視線を落とし、

「ニッ!」

と意地悪な笑みを浮かべたことが切っ掛けとなっていた。

『シアター』を出ても、まだ『内田有紀』の映像が、ビエール・トンミー氏の脳内を巡っていた。

「アータ、どっちに行くの?こっちよ」

妻の言葉にようやく我に返った。どうやら、『アジパンダバス』の乗り口とは反対方向に向かっていたようだ。

「あ、ああ…」

ようやく目に入った『アジパンダバス』は、文字通り、『アジパンダ』のバスであった。側面には、『AjiPanda®️』と『AjiPanna®️』が描かれていた。『AjiPanna®️』は、どうやら『AjiPanda®️』の妹らしい。

「ニッ!」

その時、バスの乗車席の窓から何かが光った!



ビエール・トンミー氏は、立ち眩みがし、思わず、腰を落としそうになった。

「アータ!」

マダム・トンミーが夫を支えた。

「あ…いや…」
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」

その様子を、バスの中から、『ユキ』と呼ばれた少女が、不敵とも取れる笑みを浮かべ、見ていた。


(続く)