「ああ…」
と返事し、妻に促され、席に着きながらも、ビエール・トンミー氏は、
「ふん!スケベ!」
という『ユキ』と呼ばれた少女の言葉が耳から離れなかった。いや、耳に入ってきたのではなく、脳に直接入ってきた言葉であったが。
「ふう…..」
席に着くと思わず、ため息が漏れた。
『ユキ』と呼ばれた少女、『松坂慶子』に酷似した女性、『内田有紀』に酷似した女性との『会話』に疲れていた。
「アータ、大丈夫?」
マダム・トンミーは、夫の様子が心配であった。
「ああ、大丈夫だよ。お腹空いてね」
「もう直ぐ、ホイコーローを食べられるわ」
そうだ、今回の味の素の工場見学で選んだ『「Cook Do®️」コース』では、『味の素うま味体験館』で『回鍋肉』の調理体験があるのだ。調理の後は勿論、作った『回鍋肉』を実食する。
「あーら、ご一緒なのね」
ビエール・トンミー氏は、声の方に顔を向けた。
「(まさか!)」
そう、まさかな展開であった。
「あら、奥様!お嬢さんも!」
『内田有紀』に酷似した女性とその娘『ユキ』と呼ばれた少女が、同じテーブルに着いたのだ。
「(『有紀』さん…..)」
調理体験は、班ごとにするようで、席(テーブル)も予め決められていた。4-5人で一つの班である。
「(ん!)」
テーブルの下、そして更に、エプロンの下だから、誰にも気付かれないであろうが、ある部分が『反応』していた。
「ふん!スケベ!」
「(え!)」
一瞬だが、『ユキ』と呼ばれた少女が席に着きながら、ビエール・トンミー氏に『声』付きの視線を送ってきたのであった。
(続く)