「(一体、どうなっているのだ?)」
疑問が頭の中を渦巻いていたが、ビエール・トンミー氏は、妻に促され、『アジパンダバス』の前方席についた。
『内田有紀』親娘、『松坂慶子』よりも前の席である。
「(見られている!)」
後頭部に二つの視線を感じていた。
「(あれは….『京急川崎駅』前の横断歩道で、『松坂慶子』を見かけた、というか、『松坂慶子』に睨まれた、と思ったのは気のせいではなかったのだ)」
勿論、『松坂慶子』本人ではないだろうから、『松坂慶子』の酷似した女性ではあろうが。
「(何故、今日は、『内田有紀』に会い、『松坂慶子』に会うのだ?)」
『アジパンダバス』が、『「Cook Do®️」工場まえ』というバス停に着き、下車しながらも疑問が湧いてきた。
「(ボクと妻は、『味の素』の工場に来たんだぞ)」
そうであった。トンミー夫妻は、『味の素』の工場見学に来たのであった。
「(『日清食品』の工場見学に来た訳でもないのに)」
そこが、『日清食品』の工場であれば、分らないでもなかった。
『内田有紀』と『松坂慶子』は今(2018年秋)、NHKの朝ドラ『まんぷく』に出演していたからだ。『まんぷく』は、『日清食品』の創業者夫婦の物語である。
「(いや、『味の素』の工場であろうと、『日清食品』の工場であろうと、『ユキ』と呼ばれた少女や『松坂慶子』に何故、睨まれなければいけないのだ?)」
と思いながらも、ビエール・トンミー氏は知っていたのだ。いや、ビエール・トンミー氏の股間は、知っていた。
『内田有紀』を見ないようしても、すぐ側にいることが分っているだけで、己に異変が生じていることを、そして、それを『ユキ』と呼ばれた少女も『松坂慶子』も気付いているであろうことを。
(続く)
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