2018年11月20日火曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その31]







マダム・トンミーに支えられるようにして、ビエール・トンミー氏は、『アジパンダバス』に乗り込んだ。

ビエール・トンミー氏は、分っていた。

『アジパンダバス』の乗車席の窓から光った思えたのは、『ユキ』と呼ばれた少女の射抜くような視線であることを。

だから、乗り込んだ『アジパンダバス』の中では、『ユキ』と呼ばれた少女が座っているであろう進行方向に向って左側の席は見ないようにした。

「(見たい…..見たいけど….)」

そう、『ユキ』と呼ばれた少女の横には、母親である『内田有紀』、いや、『内田有紀』に酷似した女性が座っているはずであった。だから、

「(見たい…..見たいけど….)」

自分の気持ちを殺して、進行方向に向って右側に空席を探した。

しかし、その時、再び、ビエール・トンミー氏は、立ち眩みがし、思わず、腰を落としそうになった。

『ユキ』と呼ばれた少女の視線とは別の種類の強力な視線を浴びたのだ。

「(え?....なんで?)」

一歩、後ずさりしただけで、なんとか腰を落とすことを防いだビエール・トンミー氏は、自分が見たものに疑問を抱かざるを得なかった。

進行方向に向って右側には、少々恰幅のいい初老の女性がこちらを睨んでいたのだ。

老いてはいたが、昔は相当な美人であったことを思わせる容姿のその女性は、

「私は、武家の女よ!」

とでも云うような視線をビエール・トンミー氏に向けていたのだ。



「(『松坂慶子』…!)」

そう、少々恰幅のいい初老の女性は、『松坂慶子』、いや、『松坂慶子』に酷似した女性であった。


(続く)



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