「(『有紀』さん…….)」
『味の素うま味体験館』横にある『味の素グループうま味体験館』とある案内板の前で写真を撮った直ぐ後のトンミー夫妻の間を通って行ったのは、中学生くらいに見える女の子とその母親らしき女性とであった。
「(どうして…..)」
どうしても何も、そこに用があったからに決っているが(しかも、多分、自分と同じ用だ)、ビエール・トンミー氏は、心中で疑問の声を出さざるを得なかった。
「(ああ、折角、『腫れ』が引いていたのに…..)」
母親らしき女性は、そう、南武線の中で見かけ、『大師線』で見かけた『内田有紀』に酷似したご婦人である。
「(ううーっ!)」
また『腫れ』出し、ビエール・トンミー氏は、思わず、身を捩った。
「アータ,どうしたの?」
「いや、かかとをこの道路の淵にちょっとぶつけてね」
「あーら、気を付けて」
「ああ….うん」
なんとか誤魔化し、ビエール・トンミー氏は、『味の素うま味体験館』に歩を進めた。
「!」
思わず左手を見た。妻が、手を握ってきたのだ。驚くことはなかった。さっきまで、ここまで、手を握って歩いて来たのだ。
「(ごめん….)」
妻の手を握り返しながらも、ビエール・トンミー氏は、心の中に謝罪の言葉を抱いた。
謝罪の言葉を抱きながらも、『腫れ』はいや増し、ビエール・トンミー氏は、前を歩くご婦人の臀部を凝視めていた。
(続く)
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