『大師線』の『鈴木町駅』に着き、駅構内の踏切を渡る時、ビエール・トンミー氏の『腫れ』はおさまっていた。
『コロムビア・ローズ』、『東京ローズ』のお陰である。
『鈴木町駅』の改札を出ると、目の前に白く大きな建物が見え、上部に『Ajinomoto』という赤い文字がある。
そうだ、トンミー夫妻は、『鈴木町』の『味の素』に来たのだ。
「ああ、『味の素』は、もう『Ajinomoto』なんだなあ」
ビエール・トンミー氏は、『Ajinomoto』の赤い会社ロゴを見上げながら、呟いた。
「ええ?」
「いやね。ボクにとって、『アジノモト』って、漢字とひらがなの『味の素』なんだよ」
「ふううん」
夫よりも10歳若いマダム・トンミーには、『アジノモト』が、『味の素』であろうと、『Ajinomoto』あろうと、どちらでも良かった。
「子供の頃、『味の素』って、漬物にかける調味料だった。いつも食卓においてあった」
「ウチにも置いてあるわよ、パントリーにだけど」
「主に漬物だったが、まあ、何にでも『味の素』をかけたものだ。それで美味しくなったのかどうか、よくは分らなかったけど」
「あら、美味しくなるわよ。だって、グルタミン酸だもの。旨味よ」
トンミー夫妻は、『Ajinomoto』の赤い会社ロゴのついた建物に向かって歩いていた。
「ああ、今や、旨味は、世界遺産だもんなあ」
「ええ、世界遺産になった『和食』の決め手は『旨味』ですものね」
二人は、歩道にあるなんだか動物の足跡らしきものを辿っていた。ピンクの足跡である。
「君も世界遺産に登録だね。だって、『旨味』たっぷりだからね」
「まあ!....ふふ」
(続く)
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