「(ユキ!)」
そうだ、『内田有紀』に酷似した女性は、自分の娘を『ユキ』と呼んだのだ。
「(偶然だ….)」
勿論、偶然に決っている。しかし、『ユキ』と呼ばれた少女は、母親の方に振り向く際に、一瞬、ビエール・トンミー氏の股間に視線を落とした。
そして、
「ニッ!」
と意地悪な笑みを浮かべたのだ。
ビエール・トンミー氏は、硬直した。ある部分だけでなく、全身を硬直させた。
「アータも行くわよ」
妻に声を掛けられ、硬直の呪縛が解け、ビエール・トンミー氏は、妻とともに『シアター』に入って行った。
『シアター』では、旨味に関する映像が、360度のスクリーンに展開された。圧巻であった。
が、『シアター』を出る時、ビエール・トンミー氏は、何を見たのか、分らなくなっていた。
4面のスクリーンには、旨味に関する映像が流れていたはずであったが、ビエール・トンミー氏には、10代、20代、30代、そして、40代の『内田有紀』が走馬灯のように巡っているように思えた。
次は、工場見学だ。
(続く)
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