2018年11月6日火曜日

【ビエールのオトナ社会科見学】ホイコーローを作る[その17]







「もうすぐね。楽しみね」

マダム・トンミーは、頭を夫の肩に乗せたまま云った。

「うん、そうだね」

と答えながらも、ビエール・トンミー氏の眼は、隣の車両に向いていた。

「(『有紀』さん…….)」

『有紀』さんは、そう、『内田有紀』に酷似したご婦人は、同じ『大師線』の電車に乗ったはずであった。

『大師線』は4両編成だ。ビエール・トンミー氏が乗った車両は、後ろから2両目であったので、『内田有紀』は、その前の車両か、さらにその前の先頭車両のどちらかに乗ったはずだ。

「(どこに行くのだろう?いや、帰宅するところかもしれない…..いや、時間帯からすると、やはりどこかに行くのだろう)」

自分一人であったら、隣の車両に移るところだ。

「あら、川だわ。多摩川かしら?」
「ああ、多摩川だ」

京急川崎を出て少しすると、多摩川が見えてきた。そして、橋も見えてきた。

「あれはね、六郷橋だ」
「ロクゴ-バシ?」
「ああ。箱根駅伝で通る橋だよ」



「へええ、そうだったの」
「六郷橋までは集団走で、そこからスプリントになるんだ」

と妻に解説しながらも、視線は隣の車両に行っていた。

「アータってなんでも知ってるう!」

妻はまず、自分の美貌に惚れたようだが、その後に自分の知性にも惚れたのだ。

「アータといると、Googleなんていらないわ」

その時、車両が揺れた。


(続く)



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